第1163回
「沙井の皇帝」、捕わる!

先日、広東省深セン市
沙井(しゃーじん)地区のある村の幹部が、
汚職の疑いで当局に身柄を拘束されました。
この幹部は工場経営や工場リースなどを手がけ、
その保有資産はざっと30億元(390億円)、
地元では「沙井の皇帝」と呼ばれていたのだそうです。

ここまでなら
「不正な方法で蓄財した汚職幹部の逮捕」という、
今の中国ではそこらじゅうに転がっている
陳腐な事件なのですが、
この「沙井の皇帝」の逮捕劇でビックリしたのは、
警察当局が同氏を逮捕しようとしたときに、
同氏の逮捕を阻止しようと、
その村の村民約100人が集まり、
警官隊とにらみ合いになった、という事実です。

なんだか映画の一場面のようですが、
「沙井の皇帝」、
なんでこんなに村民に好かれているんでしょう...。

その理由は同氏が工場経営や工場リースで
大儲けして蓄財した30億元を原資に、
村民全員に毎月少なくとも
4500元(58,500円)を配っていたためらしいです。
いくら経済発展が著しい深センでも、
農村で1人月4500元は大金、
かなり豊かな生活ができます。

通常、地方で暴動の原因となる共産党幹部は、
私腹を肥やすために一般庶民から
搾り取るだけ搾り取るのですが、
「沙井の皇帝」は自らの会社経営の才覚で財を成し、
それを村民に分け与えていたのです。
村民にとって「沙井の皇帝」は、
中国共産党よりもずっと自分たちの生活を
豊かにしてくれるすばらしい統治者であり、
同氏が逮捕されてしまえば、
村民はまた昔の貧乏生活に戻らねばならないため、
皇帝の逮捕阻止、という行動に出たようです。

「沙井の皇帝」が30億元の資産を築くまでには、
汚職など違法なことに手を染めていたのかもしれません。
しかし「住民の豊かで幸せな生活を確保すること」が
政治の目的の1つであるとするならば、
村民は「沙井の皇帝」のおかげで
豊かで幸せになっていたわけですから、
間違ったことをしていたとは
言い切れないような気もしてきます。

私はこのニュースを聞いて、
地元への利益誘導を徹底的に行い、
県民からの圧倒的な支持を得ていた
「新潟の皇帝」・田中角栄元首相を思い出しました。

今回の「沙井の皇帝」の逮捕劇は、
「良い政治とはいったいどういうものなのだろう」
ということを改めて深く考えさせてくれました。


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2010年3月24日(水)

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