第489回
「豊かになったのに幸せを実感できない社会」
今、中国では、日本の高度経済成長期のように、
みんなが豊かになることを目指して、
目を輝かせて働いています。
しかし、豊かになって、
あらゆるモノやサービスが市場にあふれ、
市場が成熟した後に、日本のように、
働く人が果てしない競争の波にのまれて、
「豊かになったのに幸せを実感できない社会」
になってしまう可能性は大いにあります。
20世紀後半は、資本主義と社会主義が、
お互いの正しさを主張しあう時代でした。
人類が50年の年月をかけて導き出した答えは、
「競争がない社会主義では、
人はまじめに働かず、経済が発展しないので、
資本主義の方が優れている」というものでした。
この結論に従い、旧社会主義国家の中国も、
資本主義の競争原理を導入し、
高度経済成長を始めました。
しかし、先を行くアメリカや日本などの資本主義国家が
のきなみ「豊かになったのに幸せを実感できない社会」
になっていくのを見て、その轍を踏まないように、
注意深く国の運営を進めている、というのが、
中国の現状です。
中国政府が今までの経済成長至上主義から、
「和諧社会(はーしえしゃーほい、調和の取れた社会)」とか、
「国民全体を小康(しゃおかん、ややゆとりがある)状態に」
などという、競争を抑える、どちらかというと
社会主義的な方向に揺り戻しを図っているのも、
そうした理由からなのではないでしょうか。
「資本主義と社会主義、どちらが優れているか」
という論争は、
「経済発展は国民を幸せにする」
という前提の下に議論されてきました。
しかし、軍配が上がった資本主義は、
世界各国に経済発展をもたらしましたが、
それと同時に、働く人を不幸にする
果てしない競争をももたらしました。
21世紀初頭の現在、人類は
「資本主義の競争原理は、
その国の経済を発展させるのには有効だが、
経済的な発展は、必ずしもその国民を幸せにしない」
ということを学びました。
21世紀前半は、中国や日本を含めた世界各国が、
資本主義でもない、社会主義でもない、
「国民を本当に幸せにする政治体制とはどういうものか」
ということを追求する50年になるのではないでしょうか。
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