第481回
「お客様は神様です!」
「お客様は神様です!」
と言ったのは三波春夫ですが、
私もそう信じて疑いませんでした。
中国に来るまでは...。
1996年、私が丸紅の石炭貿易の駐在員として
北京に赴任した時に、一番驚いたのは、
中国の石炭会社の態度が、
非常に高飛車なことでした。
彼らは交渉に際しても、あからさまに
「売ってやる」という態度で臨んできます。
その態度は
「国家の大切な財産である資源を分けてあげるんだから、
ありがたく思いなさいよ!」と言わんばかりです。
いや、そう言われると、
確かにそんな気もしてくるんですが...。
私は日本で石炭の営業をしている時に、
お客さんに頭を下げたり、接待をしたりするのは、
「石炭を買って頂いているのだから当然」
と思っていました。
ですから、北京に駐在すれば、
今度はバイヤーの立場になるわけですから、
中国の石炭会社が
「是非、弊社の石炭を買ってください」と
すりよって来て、私が
「ふんふん、おたくの出方しだいでは
考えてもいいですよ」
なんてできるかと思っていたのですが、
実際は、頭を下げまくって、
石炭を売って頂く日々が待っていました。
こうした日中両国の「常識」が大きく違うのは、
両国の経済発展の歴史に原因があるのではないかと思います。
日本は物資があふれるように生産され、
市場が成熟してから、既に何十年も経っています。
こんな「買い手市場」では、
「お金を払って、モノを買ってくれる人」が
一番偉いのです。
しかし、一方の中国では、物資が足りない、
「売り手市場」の世の中がつい最近まで続いていました。
「糧票(りゃんぴゃお)」と呼ばれる、
米や小麦の配給キップが廃止されたのは1993年。
私が北京に赴任する、ほんの3年前です。
中国では「モノを持っていて、
それをみんなに配給してくれる人」が
一番偉かったのです。
そんな中国で、「会社」は
「限られた物資を人民に分配する装置」
と位置付けられてきました。
そりゃ、石炭会社も「売ってやる」
という態度になりますわな。
ただ、中国も最近は、
改革開放政策による経済発展のおかげで、
物資がありあまり、
売り手が競争をするようになってきました。
中国の会社のパンフレットなどを見ていても、
「顧客至尊(ぐーかーぢーつん、顧客至上)」を
社是の一つとする会社が増えてきました。
今や、中国では、昔の国有企業のように、
鼻くそをほじりながら、
「売ってやってもいいよー」なんて言ってたら、
誰もモノを買ってくれません。
中国も「お客様は神様です!」の世の中に
なりつつあるのです。
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