第282回
倍率1万倍のギャンブル
中国では保険の仕組みが
まだ十分理解されているとは思えません。
保険システムとは、本来、
保険会社が困っていない人のお金を集めて、
困っている人に渡す、という制度です。
しかし、中国では、保険は
「比較的割の良いギャンブル」ぐらいに
考えられている気がします。
以前、私が丸紅の北京支店にいた時、
一緒に国内出張をすると
必ず空港でフライト保険を買う中国人スタッフがいました。
この保険は20元(300円)の掛け金を払うと、
飛行機が落ちて死んだ時に
20万元(300万円)の保険金が下りる、というものです。
私が「飛行機はほとんど落ちないし、
もし万一落ちても、死なないと保険金は下りないから、
20万元は自分では使えないんだよ」と言うと、
彼は「でも、柳田さん、20元の掛け金で、
20万元ももらえるんですよ。
1万倍ですよ、1万倍!
どう考えてもお得じゃないですか!」と言います。
確かに倍率1万倍のギャンブルなんてめったにありませんし、
宝くじで20万元当てるより、
中国の国内線が落ちる確率の方がずっと高いような気もします。
でも、飛行機が落ちたら、自分が死んじゃいます。
もう、損得とかそういう問題じゃないでしょうに。
元々、このフライト保険も、
飛行機が落ちて一家の大黒柱を失った家族の生活を保障する、
という崇高な理想の下で開発されたものだと思いますが、
買う側は完全に一種のギャンブルだと思っています。
北京空港に行くと、今でもたくさんの人が
フライト保険の販売窓口に並んでいます。
並んでいるのは、どちらかというと、
田舎から出てきた様な風情の人が多いです。
きっと、自分が死んじゃう事より何より、
今まで手にした事もない「20万元」という金額に
クラクラッと来てしまうのでしょう。
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