第205回
乾杯攻撃に困るインド商人
そんなこんなで何とか商売が流れる様になってくると、
インド商人が、中国の工場を視察しに来ます。
その時に困るのは食事です。
インドはヒンズー教の国ですので、彼らは牛肉は食べません。
しかし、牛肉さえ食べなければ良いのかというと
そういう訳ではなくて、宗派や個人の信条によって、
動物の肉は鶏肉と魚しか食べられない、とか、
動物の肉は一切食べられない、とか、
個人個人で条件が異なります。
中には野菜料理や穀物の料理でも、
動物性の食用油を使ったものは食べられない、という
徹底的なベジタリアンの人もいて、
こうなると、インド料理屋以外
対応出来るレストランはありません。
北京にはインド人シェフがいるインド料理屋が何軒かありますので、
野菜カレーとナンなどで、
ちゃんとした食事をとってもらう事が出来るのですが、
工場がある田舎町には、インド料理屋などありません。
田舎に出張している間、
ベジタリアンのインド商人はひたすら
饅頭(まんとう)を食べるしかありません。
中国の饅頭(まんとう)は日本の饅頭(まんじゅう)とは違って、
中に餡子が入っておらず、
食事で白いご飯の代わりに食べるものです。
小麦粉を膨らせて、こねて蒸しただけですので、
動物性のものが入っている心配は無いのですが、
それ自身の味はほとんどありませんので、
何しろ腹を満たす為だけに食べる、という感じになります。
そんな事とはつゆ知らず、工場の人たちは、
はるばるインドから客人が来る、という事で
大宴会の用意をしているのでした。
いざ、宴会が始まって、
インドの客人がほとんどの料理を食べられない、と知ると、
料理が食べられないのならせめてお酒だけでも、という事で、
いつもの様にアルコール度数50数度の白酒で、
乾杯攻撃が始まります。
工場の人たちは好意丸出しで、乾杯を勧めて来ますので、
さすがのインド商人もむげには断れず、杯を重ねていきます。
うれしい様な、困る様な。
いつもは自信満々、強気強気で押してくるインド人購買部長が、
あんなに困っているのを見たのは、
後にも先にもあの時だけでした。
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