第203回
日本商社の三国間貿易
丸紅時代、私は中国のコークスをインドに輸出する、
という仕事をしていた事があります。
商社は日本の製品を外国に輸出をしたり、
外国の製品を日本に輸入したりするだけではなく、
外国の製品を違う国に売る仕事もしています。
これを三国間貿易と言います。
普通に考えれば、外国間の貿易に
日本の商社が仲介者として入る事は考えにくい事です。
アメリカとカナダの間の貿易に、
英語が彼らより下手な上に、地理的にも遠い
日本の商社が介在する事は不可能です。
しかし、中国とインドの貿易となると、
日本商社も出番が出てきます。
中国人は
「日本人は信用出来るけど、インド人は信用出来ない」
と言いますし、インド人は
「日本人は信用出来るけど、中国人は信用出来ない」
と言います。
そこに日本の商社が出てきて、中国人には
「向け先はインドですが、買主は当社ですので安心してください」
と言い、インド人には
「原産国は中国ですが、売主は当社ですので安心してください」
と言えば、商売成立です。
この場合、日本商社の最大のファンクション(機能)は、
「信用」です。
中国、インドの両方に事務所がある、とか、
中国語や英語を話せる人材がいる、という事もありますが、
最も重要なのは、「一度結んだ契約は必ず守る」という、
日本商社としての「信用」です。
その代わり、中国の会社が貨物を出さなかったり、
インドの会社がお金を払わなかったりした場合は、
全ての損失は日本の商社が負担しなければなりません。
普通に考えれば、当事国同士が貿易をすれば済む話で、
一見、日本の商社など入り込む余地は無いと思われる
三国間貿易ですが、事情によっては、まだまだ
日本の商社がそのファンクションを発揮出来る余地も
残されているんですね。
それは他の商売にも言える話で、
「常識的に考えて商売にならないだろう」と思った時でも、
すぐには諦めずに、関係者の話を聞いてみると、
意外な所で、自社のファンクションが役に立つ場面が、
出てくるかもしれません。
日本商社の三国間貿易は、
そんな事を考えさせてくれる商売です。
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