第187回
この国は外圧では動きません
私の会社では、中国の活性炭を日本に輸出する、
という仕事もしています。
これは丸紅時代に付き合っていた輸出入公司の担当者が、
国有企業の従業員とは思えないほどきっちりとした仕事をするので、
私が丸紅を辞めてからもお付き合いを続けさせて頂いている、
というものです。
この活性炭輸出に係る増値税の還付率が、
2004年1月1日より引き下げとなってしまい、
輸出価格がその分値上がってしまいました。
増値税とは「価値が増加した部分に課税する」という意味の
いわゆる付加価値税で、日本で言えば消費税に相当します。
増値税は通常17%で、売上から仕入を引いた額に対して課税され、
最終的には消費者が負担する事になります。
但し、輸出に関してはゼロ税率が適用される事になっており、
輸出者は一旦17%の増値税を納めますが、
建前上は後で納めた増値税を還付してもらう事になっています。
しかし、実際は国家財源の逼迫を理由に、
納めた増値税が何年経っても返って来なかったり、
17%まるまるではなく一部しか返って来なかったりで、
中国に進出している輸出型日系企業からも
非常に評判の悪い制度です。
今回、その還付率が製品によっては更に引き下げられました。
「輸出増値税の還付率引き下げ」というとややこしいのですが、
簡単に言えば「輸出税の引き上げ」です。
このタイミングでの還付率引き下げは、
明らかに諸外国の人民元切り上げ圧力に対する対策です。
輸出増値税の還付率引き下げ
→輸出価格の上昇
→輸出量の減少
→貿易黒字の減少
→人民元切り上げ圧力の減少、
という図式です。
この様に、中国政府は「人民元の切り上げ」や
「人民元の変動相場制導入」などという、
国家の金融システムの根幹を揺るがす様な切り札を使わずとも、
貿易黒字を減少させる程度であれば、
それを実現させる為の小手先のカードをいくらでも持っています。
輸出入公司に与える輸出枠を絞る事も、
輸出を減少させる手段の一つです。
WTOは輸入の関税や非関税障壁に対してはうるさいですが、
輸出に国家が干渉する事に対しては寛容な様です。
中国政府は当面、こうした小手先のカードで外圧をかわし、
国内の産業が人民元の切り上げに耐え得る体力を付けた、
という確証を得た上で、
「人民元の切り上げ」なり「人民元の変動相場制導入」なりに
踏み切るのではないか、と私は思います。
どこかの国と違って、この国は外圧では動きません。
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