第112回
独立起業されてしまうリスク

中国で優秀な人材を確保し難い要因の一つとして、
優秀な人材はすぐに自分で会社を作ってしまう傾向にある、
という事が挙げられます。
日本ではノーベル賞を受賞した田中さんが
島津製作所でサラリーマン研究者を続けたり、
青色発光ダイオードを発明した中村さんが
会社から報酬として2万円しかもらわず、
海外の研究者から「スレイブ中村」と呼ばれたりしていますが、
中国では有り得ない事です。
この辺の感覚は、米国と非常に似たものがあります。

日本でも以前に比べれば、
徐々に起業が身近なものになりつつあるかと思いますが、
それでも大企業を辞めて起業する、となると、
「ドロップアウト」という受け止め方をされる事は否めません。
一方の中国では、起業は明らかに「ステップアップ」です。
大企業の看板を使わずにお金を稼ぐ、という事は、
明らかにサラリーマンより多くの能力が必要とされます。
全ての責任とリスクを取って事業を進めるので、
サラリーマンよりも肝が据わっていないと出来ません。
そういった意味で、「ステップアップ」と捉えられている様です。
会社のオーナー経営者を指す「老板(らおばん)」という呼び名は、
会社の大小に関わらず、常に畏敬の念を込めて使われます。

以前もお話ししましたが、
私が丸紅を辞めて北京で起業する事を話すと、
中国人の友人はみんな
「恭喜!恭喜!(おめでとう!おめでとう!)」と
言ってくれるのですが、
日本人の友人は
「なんでまた」という反応をする人がほとんどでした。
こうした事からも、
明らかに日本と中国では起業に対するイメージが違います。

身近に起業して成功している人がたくさんいると、
自分にも出来る様な気がしてしまい、
その相乗効果で、中国では更に起業家が増えている、
というのもあるかも知れません。
私の場合は、以前お話しした、田さんが大企業・中煤公司を辞めて
自分の貿易会社を作ったのを身近に見ていた事が、
私の考え方に大きな変化をもたらしました。
私が駐在員として北京に来ずに、
ずっと東京で、日本の常識の中で暮らしていたら、
起業するなどという事は、思い付かなかったかも知れません。

どちらにしても、中国は起業家精神の旺盛な国ですので、
経営者としては、優秀なスタッフが他の会社に転職してしまう、
というリスクの他に、
独立起業されてしまう、というリスクを
常に抱えて行かなければなりません。
こうして個人企業の老板が増えていくと、
優秀な人材の争奪戦が更に激しくなりますので、
優秀な人材の給料は更に上がっていく事になります。


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