弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第190回
限定承認では税金が発生

相続の放棄は、
遺産を全く相続しなくなるということですから、
わかりやすいです。
相続の限定承認というのは、
遺産で払えるだけ相続するという制度で、

遺産にマイナスが多ければ
残ったマイナスは相続しないで済み、

遺産にプラスが多いときには、
残ったプラスの遺産を相続できる

という相続人にとって有利な制度です。

具体的には、遺産が、
借金6000万円と
土地と建物があったとします。
このケースで限定承認した場合、
土地と建物が、
5000万円でしか
売れない場合には、
債権者には
5000万円の範囲で弁済すればよく、
残りの1000万円については
支払わなくてもよいこととなります。

また、土地と建物が
7000万円で売れたときには、
6000万円を債権者に支払い、
残り1000万円を
相続できることとなります。

通常、限定承認は、
このように理解されており、
弁護士などの法律家も
このように考えている人が多いと思います。
しかし、相続の限定承認をすると、
その時点で、土地と建物について、
譲渡所得税が発生してしまいます(所得税法59条1項)。
譲渡所得税は、
長期譲渡所得で、20%、
短期譲渡所得で、39%の税金が課されます。

したがって、前記の例で、
税金が発生することを考えると、
7000万円で売れたとしても、
1000万円を相続できる
ということにはならないのです。
5000万円でしか売れなかった場合は、
債権者が譲渡所得税の分だけ
返済を受けられない
ということになりますが、
相続人にとっては
借金を相続することには
ならないので、
結論には変わりありません。

しかし、譲渡所得税を払わずに、
先に債権者に返済してしまうと、
後で税金の支払が
残ってしまうので
大変なこととなってしまいます。
このように、
限定承認をするときには、
譲渡所得税の問題がありますので、
不動産業者に
不動産の売れる見込み額を
調べてもらって、
弁護士と税理士との
両方に相談してから、
限定承認をするかどうか
決める必要があります。

僕は、なるべく
「税理士さんに相談してください」
とアドバイスするようにしていますが、
弁護士を含む法律家は
税務の専門家ではないので
税金のことは考えないで
処理することが多いです。
みなさん、資産を動かす場合には、
税金が発生する可能性があることを
頭に入れておいてください。


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2006年9月14日(木)

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