第3回
私自身のプロフィール その3
忘れてはいけない三人の恩人

こうしてあこがれの喫茶店勤務は
銀座の「美人喫茶店」から始まりました。
狭いカウンターは男性二人が入ると
残存空気は酸欠になるのに
新入の大男が入ったため、パニックになりました。
洗い物とおしぼりの洗いです。
手を切らないガラスの洗い方、
固くしぼって巻き上げたおしぼり、
今でもこの二つだけは身体が覚えていて、
新しい店で洗い場で披露すると若い女性から
「すごい!!」と熱いコールをもらいます。

しかし3ヵ月たってもチーフの鈴木さん(21才)は
私にコーヒーを一杯でも抽出しろと云わないのです。
しかしある日突然、指命をもらうかも知れません。
小さなノートにコーヒードリップ
(ネルフィルターを使ってコーヒーを抽出する方法)する手順を
書きとめることだけは忘れませんでした。
そしてその日はやはり突然来たのです。
「永嶋君、25人前のコーヒーを作って下さい」
さすがに緊張しました。ノートの手順(マニュアルと云う用語は
その10年後に知りました。)を見て、
鈴木チーフの様に抽出を始めました。

その手順とは、
1.片ネルのネルフィルターの毛羽たった方を内にして
  きれいな水につけてあったのを固く絞り、
  手でパンと3回はたいて毛羽を起こす。
  太いハリガネ状に出来たヤグラ(業界用語です)の上部に
  かけクリップでとめる。
  とめる時のネルの折り直しは25人前の時は2.5cmとする。

2.沸騰したやかんの湯はコンロからはずして10秒間待ち、
  ネルフィルターにすりばち状にコーヒーの粉を
  した真ん中から上、30cmぐらいから、
  真ん中から注ぎ始め、円をかくように静かに細く注ぐ。
  湯が切れないように6回に分けて注ぎ、
  6分30秒以内で2500ccのコーヒーを抽出する。

細心の注意で、集中力を注入した自信作、やったと思った時
「永嶋君。このコーヒー売れないので捨てる」
と云う鈴木チーフを呆然と見ている自分がそこにいました。


『知識、技術は知恵と技におよばない
知識+心は知恵なり、技術+心は技なるからだ』


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