第101回
ブランドケーエイ学41:ある飲食店主の悩み。

ある飲食店の経営者から相談を受けた。「開店して1年になるが、売上げはいまいち。
情報誌にクーポンを出しても、なかなかリピーターになってもらえない。どのようなツールをつくって、宣伝したらよいか?」と。料理には自信があり、来てもらえれば満足してもらえるハズ、という。
彼のねらいは、居酒屋のちょっと上、創作和食を核としたダイニングバーの路線。店舗はビジネス街のどまん中。顧客は、やや年輩のサラリーマンと観光客が中心だ。ランチタイムのあと、店は死んだように客がひいて、調理人はタバコをふかしていた。

頼まれたのはツールなのだが、ツール以前に、メニューと店舗、接遇のあり方が、ねらい通りに貫徹されているのかどうか?
ここは、チェーン店の居酒屋とはまったく違う生き方をしなければならない。メニューを見てると、居酒屋のようにメニューを揃えたい気持ちと、創作料理を出したい気持ちのあいだで、迷っているように見えた。
店内を見渡してみると、入り口に大きな素焼きの壺があって、枯れ枝を飾ってある。棚の上のアクセントもドライフラワー。落ち着いた店にはなっているのだが、鮮度と勢いが足りない、と感じた。

北海道の料理は、技術よりも素材を味わってもらうものだし、顧客の期待もそこにある。どういう観点で素材を選んでいるのか、またその鮮度はどうか、肝心なところのアピールがたりない。これはツール以前の、実態の問題でもある。
以前は、写真付きのメニューだったのだが、ぼくの意見を聞いて、写真をやめたのだという。たしかに、こういう店で写真付きのメニューはやめた方がいい。たいがいの店では、写真の料理がいちばん出来がよく、出てきた料理はそれより下である。そこには、期待はずれはあるけれども、驚きがない。

さて、店にとっても、客にとっても合理的なはずのコース料理が、なぜ売れないのか?
この店に限らず、基本的に料理屋には信用が足りないのではないか。料理人に信用があり、創作和食に徹するならば、本来はぜんぶ「おまかせ」でもいいはずだ。

ならばまず店に、店主あるいは調理人の、人格を感じさせることが大切と思う。配達まかせだった仕入れも、自ら市場にいって買い付けてくる。そしてどういう基準で食材を選んでいるのか。鮮度と気配りを感じられるよう、店内のアクセントも変える。
やらなければならないことがいっぱいあった。さあ、これからはアイドルタイムが忙しくなるだろう。


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