第627回
邱さんの親筆態度に共感する読者が多い
いま邱さんの作品エッセン集、
『新・メシの食える経済学』の文庫版が
発行されていますが、
そのオリジナル版にあたる
『メシの食える経済学』が発行されたとき、
邱さんはその「まえがき」で
ご自身が書いてきた作品について
解説を書かれております。
いまから20年も前の
昭和59年に書かれた文章ですが、
邱さんがご自身の数多い著作を概観していて、
邱作品の全体感をつかみたいと思われる方には
たいそう有益だと思いますので、
以下に引用させていただきます。
「私の文章書きは小説からはじまった。
『密入国者の手記』『濁水渓』『香港』と続いて、
書きはじめて満2年の昭和30年後半には直木賞をもらい、
どうやら独りだちできるようになったのだから
幸運な出だしだったといえるだろう。
しかし、私には『食は広州に在り』『象牙の箸』
『漢方の話―食前食後』からはじまって、
『奥様はお料理がお好き』『邱飯店のメニュー』、
さらに『食指が動く』に続く
食べもの随筆というジャンルの書きものもあるし、
また『日本天国論』『香港の挑戦』といった
日本人論のシリーズもある。
さらに『東洋の思想家たち』
『再建屋の元祖 二宮尊徳』
『日本で最もユニークな経営者小林一三』
といった文明批評的な人物論のシリーズもある。
『食べて儲けて考えて』
『お金の使い方』
『ダテに年はとらず』
『死に方・辞め方・別れ方』
『子育てはお金の教育から』
といった人生論的なシリーズもある。
私にとっては、どの著作も必然性があって
執筆したものであるが、
それらの全部を束にしても、
私の金銭、利殖、株式投資、
税金、経営などについて書いた
一連の著作の知名度には遠く及ばない。
それは私の力が
特にそこに注がれているということでもなければ、
私のそれらの作品が
他に比してすぐれているということでもない。
強いていえば、お金に対する人々の関心が圧倒的に強く、
それに即応した私の執筆態度に
共感を覚えてくれる人々が多かったからであろう。」
(『メシの食える経済学』昭和59年)
この続きを次回にも引用させていただきます。
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