第116回
邱さんの読者層は年齢幅が広くなっているようです
「あなたも賢者になれる」という言葉には
言外に「私は賢者である」という意味がこもっていて
作者としてはとても面映い感じがします。
しかし、本のタイトルの目的は
どれだけ多くの人の目をひきつけるかが大事で、
作者がドキッと感じるくらいのほうが
パンチがあっていいのかなとも考えました。
まあ、私などの頭では到底思いつかない。
相当にジャンプしたタイトルであることは間違いありません。
この名前に自分がなじむには少し時間がかかるかもしれないけど
邱さんからいただいたネーミングで
出版社と私の間にあった意見の食い違いも一挙に解決するなあ、
こういうのを「鶴の一声」というんだろうなあと思いました。
また、邱さんがわざわざ序文を書いてくださったというのも
感激で、私は天にも昇る思いがしました。
私は昂奮を抑え切れず、隣で雑談の後片づけしている
青年達のところに戻って、
「本の名前が決まったよ」と披露しました。
そうしたら、先ほどまでの懇談の最中、
先輩社員に仕事上の不満をぶつけ、
その反動で先輩たちから逆襲を受け、
あれこれお説教を垂れられていた
その場では一番若い28歳の青年が、私を茶化しました。
「『ケンジャ』って実験の験の字ではじまる
『験者』じゃないでしょうね」
「『ケンジャ』は『験者』じゃなくてカシコイの『賢者』だよ。
それがメインタイトルで、サブタイトルが
『私は邱永漢さんの知恵を借りた』」
するとその青年は、元気よく反応しました。
「エエッ、邱永漢さんて、僕が読んでいる人ですよ」
この反応には私も先輩たちもびっくりです。
とっさのことでどんな本を読んだのかときくのを忘れましたが
「もしもしQさんQさんよ」の連載で
若い読者が開拓されてきたのでしょうか、
私の頭では邱さんの本を読んでいる人は
30代中半以上の人が大半と思っていたのですが、
身近なところに年の若い邱さんの愛読者がいることを
知ることにもなりました。
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