第107回 (旧暦4月25日)
サンキラ餅
南北に細長い日本列島では、
植物をおなじ用途や目的に使用する場合でも、
地域によって使われる植物が異なってくることが
少なくありません。
これは、地域によって生活圏の植生に大きな違いがあるためで、
東日本の「カシワ餅」と西日本の「サンキラ餅」の関係などが
その好例にあたるでしょう。
「カシワ餅」は、ご存知「端午の節句」に
「ちまき」とともに作られる生菓子ですが、
このとき使われるカシワの葉が手に入りにくい西日本では、
カシワの葉の代用としてサルトリイバラの葉が
用いられるようになり、このサルトリイバラの葉で包んだ餅を
「サンキラ餅」と呼ぶようになったのです。
サルトリイバラというのは、
平地〜山地の林縁に生えるユリ科のつる性低木で、
鎌倉の山でも、ちょうどいまごろの季節、
子供たちの手の平くらいの丸い葉を互生させた
新しいつる芽を盛んに伸ばしている姿がたくさん見られます。
このサルトリイバラの葉で包んだ餅が
なぜ「サンキラ餅」と呼ばれるようになったかといえば、
サルトリイバラは古くから「サンキライ(山帰来)」と呼ばれて
根茎を薬用してきた歴史があったからです。
サルトリイバラの根茎にはサポニンやタンニンが含まれていて、
その乾燥したものを
「ばっかつ」という生薬名で呼びますが、
解毒や解熱、利尿などの作用があり、
古来、梅毒やるいれきの薬として重用されてきたほか、
民間では、今でも、でき物やはれ物、むくみの折の利尿などに
これを煎服する療法が行われています。
また、この葉で餅を包むようになったのは、
葉にフラボノイドのルチンを含み、
これで包んだ餅はよい香りがするうえに、硬くなりにくく、
かつ傷みにくいなどの効用があるためですが、
今ごろの若葉は、餅を包むだけでなく、
軽く茹でて水にさらし、おひたし、あえ物などで
食用することもできますから、
手に入れられる機会があれば一度試してみるとヨロシイ。
ついでながら、秋に紅熟する果実も、
生食できるほか果実酒としても楽しめますゾ。
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