旅行記者・緒方信一郎さんの
読んでトクする旅の話

第189回
アパルトヘイトは撤廃されたけれど・・・

南アフリカで行われていたアパルトヘイト、
すなわち人種隔離政策は、
黒人や有色人種を差別するものとして、
1991年に撤廃されました。
ただ、長年続いた制度を変えるには時間がかかります。
その後も大統領に選ばれたネルソン・マンデラ氏が
様々な尽力をするなど、長い道のりがありました。
我々が情報を得るのは主に報道を通じてでしたが、
頻繁に報道されると「世論」を形成します。
激動する国やカリスマ性のある人物は、
ニュース・バリューがありますから、
自然と報道される機会も多くなります。
「アパルトヘイトはけしからん」との世論が高まれば、
撤廃に向けた動きにも拍車がかかるというものです。
しかし、情勢が一段落して落ち着いてくると、
報道される機会も減っていきます。
最近、日本で南アフリカの社会について、
報道されることはほとんどありません。

私も、南アフリカの現状について、
実際に行ってみるまで知りませんでした。
海外旅行の記事を書くものとして恥ずかしい限りですが、
現実問題として、日本人の旅行者が多くない国だと、
情報収集をする機会が少なくなってしまいます。
行く前の印象は、「40年も続いたアパルトヘイトの傷跡は、
簡単には癒えないだろう」というもので、
それは一面では想像通りでした。
たとえば大都市ヨハネスブルグは相変わらず犯罪が多い。
これにはアパルトヘイトで貧富の差が拡大していったことが
影響しているのは間違いないでしょう。

しかし、国全体の情勢は、そんなに
単純なものではありませんでした。
黒人や有色人種が力を持つようになると、
今度は、そうした人々が特別に優遇される動きが出てきた。
国を代表する航空会社、南アフリカ航空では、
一時期、白人の乗務員を採用しなくなりました。
街中のレストランやホテルなどでも、黒人や有色人種を
優先的に採用する政策がとられるようになった。
こうした観光客が接する以外の職種でも、
そうした動きが見られるようになったそうです。
アパルトヘイトのおかげで貧困を
余儀なくされている黒人や有色人種がいる。
一方で、黒人や有色人種が優先的に採用されるため、
働き口がなかなか見つからない白人がいる。
この国がかなり複雑な状況になっていることは
想像に難くありません。
黒人や有色人種が力を持つようになった途端、
白人を逆差別するようになった。
そんなことはないと信じたいものです。
ただ、「強い白人、弱い黒人」。
そんな単純な構図ではないことは確かです。
アメリカでも、一部の地域で黒人や有色人種を
優先的に採用する「逆差別」が社会的な問題になっています。
なお、南アフリカ航空ではその後、再び白人を採用しています。
理想論かも知れませんが、職場の基本は「適材適所」。
平等な採用が行われ、「いい国」になってくれればと思います。

私の場合、日本人に観光地としての魅力を
伝える記事を創るために渡航するわけですが、
その過程で、必ずその国の事情を知ることになります。
そんな中でも、南アフリカの現状は特異なものでした。
誤解のないように言っておきますが、南アフリカは、
旅行地としての魅力は十分、というよりかなり高いです。
それについては、次回の記事で。

(※当記事で「白人」、「黒人」、「有色人種」といった肌の色で人間を区別する言葉を使っていますが、文章を分かりやすくする便宜上のものであり他意はありません)


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