第145回
入国審査を緩くしたスポーツ選手
スポーツや芸術は人種を超えて人々に共感をもたらす。
今さら、そんな歯の浮くようなことを言っても仕方ないのですが、
中には、旅行者に現実的なメリットをもたらしてくれることもある。
メジャーリーグで活躍するイチロー選手の所属するマリナーズ。
その本拠地はアメリカ北西部、ワシントン州・シアトルにあります。
シアトルといえば、入国審査の厳しい所として、
一部の旅行者には有名でした。
厳しい、という表現は語弊があるかもしれません。
とにかく、やたらと話しかけ、なかなか通してくれない。
そんな目に遭った人が多かったのです。
気分次第でそうしているのではないか、とも疑われた。
あまりのしつこさに泣き出してしまった女性もいたと聞いています。
イスラエルなど政治的な理由で厳しい審査をする国もありますが、
多くの入国審査場で、日本人旅行者は「フリーパス状態」でした。
同じアメリカでも、ロサンゼルスやニューヨークでは、
一度も係員に話しかけられたことがない。
そんな人がいても不思議ではない感じです。
しかしシアトルは、私も経験がありますが、質問の数が多かった。
アメリカの入国審査官は、それぞれに主権があり、シアトルでは、
厳しい質問をする方針があったのかもしれません。
そんなシアトルの入国審査の厳しさを
緩和させたと言われるのが、イチロー選手。
シアトルの入国審査では、
「イチローを応援にきたと言えば簡単に通してくれる」
という噂が広まり、その手を使った人が実際にいました。
もっともイチロー選手が活躍したおかげで日本人旅行者が増え、
質問を少なくしないと入国審査場に人が溢れ返ってしまうという、
物理的な理由もあるでしょう。しかし、それとて、
イチロー選手の影響であることには違いはない。
ベースボールはアメリカの国民的なスポーツですし、
シアトルは大都市ではありませんから、街を挙げて、
マリナーズを応援していると言っても過言ではない。
そんなチームを応援に来たと言われると、
気分がよくなる審査官がいても不思議ではない。
旅行の目的がはっきりしていますから、
何をしに来たか分からない怪しい旅行者だと思われることもない。
ロサンゼルスでは「野茂選手を応援に来た」、
ニューヨークでは「松井選手を見にきた」。
この手はいろんな所で使えるかもしれません。
とはいえ、9・11のテロ事件以後は、
「テロ防止」が重視されるようになりましたから、
ある意味で公平な審査がされ、以前のシアトルのような、
理不尽な入国審査がされる心配はないようですが。
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