第2086回
書評が「週刊ポスト」「週刊金曜日」に・・・
お蔭さまで、拙著
「大正霊戦記―大逆事件異聞
沖野岩三郎伝」を読んでいただいた、
多くの方たちから、丁寧な手紙がたくさん届いています。
明治、大正の古い文献も引用した350ページの歴史評伝ですから、
読み易く作られている単行本や新書に馴染んでいる人には
読む時間も労力も大変でしたでしょうに、
上は90歳の方から、若い人は30歳の女性まで、
本当に有難いことでした。
沖野岩三郎の文献や写真を保管している、
明治学院大学歴史資料館の原豊さんからは次のような
手紙をいただき、さらに新たに秘蔵の写真も数枚、
コピーして送って貰いました。
「さっそく、読ませていただきました。
流れるような文章で、沖野岩三郎が描かれ,
しかも詳細な資料探索をされ、
一級の沖野岩三郎伝が出版されたことに敬意を表します。
沖野と大逆事件との関係や
その後の秘密伝道のことなど、
感動しながら読ませていただきました。」
また、沖野の故郷・和歌山で、長年、中学の校長をなされ、
90歳を超えて、いまなお、元気に郷土史の執筆もなさっている
池本多萬留さんからは、自著「魂のふるさと」と共に、
丁重な手紙を頂戴しました。
池本さんは、沖野が作家として大成した昭和16年、
故郷・和歌山に講演旅行に来た折に、
師範学校の生徒だったのですが、
学校の講堂で開かれた講演を、
いまだ感動を持って覚えているという方です。
「沖野さんは大正年間は流行作家として名声が高く、
『宿命』『混沌』などの小説を、大阪朝日、東京朝日、
中央公論、新潮などに次々と発表されており、
和歌山市に講演に来たころは、
歴史、童話などの研究のかたわら、
全国各地に講演行脚にまわっていました。
話術が巧みで話題が豊富でいたるところで好評でした。
そこで、沖野さんは、母校の和歌山市にある師範学校で
講演を申し入れたのですが、
学校側は大逆事件との関連を懸念して体よく断ったのです。
しかし、ある正義感の強い県議を通じて
学校と交渉してもらい、沖野さんの講演は実現し、
まだ20歳の頃の私も拝聴する機会を得たわけです」
なるほど、沖野岩三郎や大逆事件について
生身で知っている、いわば生き証人でもある
池本さんの手紙は、当時の病的ともいえる
「言論弾圧の時代」の様子を伝えてくれておりました。
沖野岩三郎と言う人は、事件後、和歌山市までは来たわけですが、
生まれ故郷の日高郡の寒川村までは一度も帰っていません。
僕は、これが不思議だったのですが、
作家になってからも刑事の尾行は続いていたようで、
「何も知らない、故郷の村の人々に迷惑がかかってはいけない」と
再び、生地を踏まなかったというのですね。
ともあれ、僕たちの祖父、曽祖父の時代とは、
いまから見れば想像を絶するほど
「個人の自由」も「社会の平等」も無視された時代でした。
もう、100年前の真実を語る人も居なくなってしまうわけで、
その意味でも「時代の地下室」に隠された日本と日本人の
「魂の葛藤」の姿を伝える一助にでもなればと思い、
この本を書き下ろしたわけです。
有難いことに、僕の古巣、
いわばジャーナリズムの故郷でもある
「週刊ポスト」の編集長も読んでくれて、
「週刊ポスト」<5月12日(月)発売>※1の
書評欄に取り上げてくれます。
また、6月に入ると「週刊金曜日」※2で作家・山口泉さんが
1ページ大の書評を書いてくださるそうです。
詳しくはまたお知らせしますが、こちらもぜひ読んで見て下さい。
※1 http://www.weeklypost.com/
※2 http://www.kinyobi.co.jp/
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