| 第1742回ガン転移抑制と「温熱」
 5月12日(土)、東京・中野のサンプラザで開かれた「第11回全身ハイパーサーミア研究会」の話の続きです。
 主催者は、いま発売中の「いのちの手帖」第3号、春夏特大号に
 「いきいき診察室  がんと温熱の話」を寄稿していただいた、
 全身ハイパーサーミア=WBH(全身温熱療法)の権威・
 ルカ病院・ルーク・クリニック※1の竹内晃院長です。
 ところで、ガンの浸潤・転移を防ぐには「MMP(マトリックス メタロ プロテアーゼ)などの
 蛋白質分解酵素の発現を抑制する」という考え方がありますが、
 その転移抑制効果については、竹内先生他の医師による
 学会報告もWEB上に公開されています。
 概略を紹介しておきましょう。
        * ●転移性腫瘍に対する治療戦略進行癌患者のMMP-1活性 ―全身ハイパーサーミアにおける検討―
 【目的】進行癌患者の血清MMP-1とMMP抑制物質TIMP-2を測定し
 MMP-1/TIMP-2比でMMP-1活性を評価した。
 さらに遠赤外線による
 全身ハイパーサーミア(WBH)後の変化を測定し
 同療法の転移抑制効果を検討した。
 【対象】1998年6月〜1999年1月に外来受診した
 転移のある進行癌患者50名、及び健常者20名、
 さらに1コース(4回)のWBHを施行した
 例の終了3週間後のMMP-1活性を検討した。
 【結果】患者のMMP-1の平均血清濃度は健常者と比べ有意に高く
 TIMP-2は著明に低下していた。
 MMP-1/TIMP-2で活性値を評価すると健常者0.15に対して
 癌患者は0.43と明らかに高い活性を示した。
 WBH後では奏効(CR.PR)群9例は
 0.37から0.21と正常レベル近くまでのMMP-1活性の抑制が認められ、
 非奏効(NC.PD)群27 例 では
 0.43から0.51と活性が促進していた。(略)
          * ちなみに「ガン転移抑制」の考え方とは以下のような原理になっています。
 【原発巣で増殖を続けたガン細胞は、
 血管やリンパ管を通って全身に広がり、
 その一部は他の部位で生着して増殖を始める。
 これが「ガン転移」。
 転移の部位としては肝臓、肺、脳、骨などが多い。
 また、原発巣のガン細胞が組織の被膜を破って、
 周囲に散布される状態を「ガン播種」といい、
 これも転移の一つ。腹膜播腫、胸膜播種などがあるが、
 一般的に早期ガンは局所療法。
 全身に広がった進行ガンは全身療法を選択】
 遠赤外線による体表からの加温法=全身ハイパーサーミア=WBH(全身温熱療法)が、
 ガンの転移抑制を目指す、
 「体にやさしい」最先端の治療法の一つというわけですが、
 では、竹内晃医師は、症状の進行した
 転移の患者に、どのような治療を施しているのか、
 当日の臨床例報告の概略を紹介しておきましょう。
 ガンの種類や症状によって、3つの分かれているようです。
 (1)全身ハイパーサーミアの単独療法
 (2)抗ガン剤+全身ハイパーサーミアの併用療法
 (3)HIFU(ハイフ=集束超音波療法)+
 全身ハイパーサーミアの併用療法
 最近、とくに(3)のHIFU(ハイフ=集束超音波療法)+全身ハイパーサーミアの併用療法が画期的効果を挙げ、
 竹内医師は、これを化学療法は使わない、
 あたらしい集学的熱療法
 (Intensive Thermal Care)と命名して
 さらなる方向性を探っているそうです。
 ちなみに、HIFU(High Intensity Focused Ultrasound.
 集束超音波療法) とは、
 たとえば早期前立腺ガンなどに使われているもので、
 前立腺に強力な超音波をピンポイントで照射。
 焦点を結んだ領域は80〜98度に加熱され、
 ガンを焼いて壊させるという方法。
 焦点から外れた領域は温度上昇が低く抑えられ
 直腸などに障害を与えないというわけです。
 
 「進行した全身転移ガンの数例では、
 病巣に対するHIFU施行後、
 全身ハイパーサーミアを併用することによって、
 腫瘍の縮小に加えて、腫瘍マーカー及び、全身的な炎症が改善。
 抗ガン剤を一切使用しないで、よい結果が出ています」
 と、竹内医師は、頭頸部ガンや
 肝臓ガンなどの臨床例をあげておられました。
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