第1706回
「夭折」より「長命」の作家の本を読む
40歳を越えたらスピリチャルな面を思い起こそう、
40歳を越えた中年の患者や家族は、「心魂本」を読もう――、
という話の続きです。
その根拠として
「(1)身体(生物学的発達)(2)精神(心理学的発達)は、
ともに、20歳頃ころまでに成長し、
40歳まで平衡状態が続き、40歳ころから衰えていく・・・。
それに引き換え、魂(スピリチャルな発達)は
40歳ころから進化する、成長が始まる」という
バーナード・リーヴァフッド(Bernard Lievegoed)という、
オランダの精神科医で人智学者の
「40歳からの魂進化論」を紹介しました。
ちなみに、人智学とは、ハンガリー生まれの思想家
ルドルフ・シュタイナー(1861―1925)が提唱した
一つの特異な世界観です。
「人間は肉体、魂、精神の三要素から成っている。
大いなる『精神』の世界は永遠の存在であり、
人間は、まず『魂』をまとい、
次に『肉体』をまとって生まれてくる。
そして『肉体』が滅びると、その『肉体』を脱ぎ、
『魂』を脱いで『大いなる精神』の世界に帰って行く」・・・
いわば、こうした考え方で、
この世界観にもとづいて、芸術、教育、
医療、科学など広い分野で
ヨーロッパの知識人に影響をもたらしたわけですが、
人智学については、数行で解説できるものではありませんから、
話はここまでにしておきます。
40歳を越えた中年の患者や家族は、
「心魂本」を読もう――、という話に戻します。
40歳を過ぎて、50歳前後、60歳前後に大病を患う人が多い反面、
社会的には、責任ある組織の長になる年代である――、
また、身体にばかり気をとられ、
精神や魂といった目に見えない部分の変化に
中年になっても気がつかないで、
権威や物欲ばかりに固執していると
思わぬ失脚を招いたりする――、
「40歳からの魂進化論」は、
納得させてくれる理論ではないでしょうか?
というわけで、元気で長生きしていくためには、
ただ物欲には走る、
また手軽な健康マニュアル本や霊感本にすがるというのではなく、
40歳からは、「いのちの心魂本」を読むことをすすめます。
自分の後半人生の指針が、しなやかに力強く設計できます。
では、どんな本を読むべきか?
まえに紹介した五木寛之さんや帯津良一先生の本は
読みやすいですし、心魂本の入門書として最適です。
そこでスピリチャルな世界に、気持ちが共振したら、
学生のころに、一冊や2冊は読んだはずの
東西の古典の名作を読みましょう。
哲学書や科学書でも、小説や随想でもいいでしょう。
とくに、夭折した天才著者のものより、
長命の著者が残した、40歳以降の作品がいいと思います。
40歳を過ぎたら、
学校で人生観や世界観を教わるわけには行きません。
ましてや、企業や国家に、
自らの後半生を託すのは愚の骨頂でしょう。
自分で処世設計を創造できる年代が「40歳から」ですから、
人生の先達の心身の苦悩を克服する知恵を学ぶには、
言い古された話ですが、「古典に学ぶ」ことが近道なのです。
ちなみに、哲学の祖・プラトンも80歳の長命ですが、
本格的に行動し始めたのは40歳過ぎなのですね。
哲学者ならベルクソン、科学者ならアインシュタイン、
作家ならゲーテやトルストイなどなど・・・
創造的でスピリチャルな世界を
見せてくれる長命な「叡智」の古典はたくさん残っています。
ドイツの作家・トーマス・マンは
「ゲーテとトルストイ」というエッセイの中で、
同じ天才作家でも、シラーやドストエフスキーよりも
ゲーテとトルストイの方が「自然の高貴性」がある述べています。
その理由は『シラーの天才もドストエフスキーのそれも、
地上の一角を霊験あらたかな霊場とはなしえませんでした。
彼らはあまりに若くして死にました。
彼らは、ゲーテやトルストイのように
長老的年齢に達することが出来なかったのです』と。
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