元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第1698回
「メニュエル氏病」と過度のストレス

いま、僕たちの日常に折り重なるようにして襲う、
得体の知れぬ「人生の不安」、
「ぼんやりした不安」とは何か?
いま発売中の「いのちの手帖」第3号に
特別掲載させていただいた、
文壇の重鎮である安岡章太郎先生の随想、
「ぼんやりした不安」の話の続きです。

自らの持病であるメニュエル氏病の難病不安から説き起こして、
自殺した芥川龍之介の「ぼんやりした不安」から、
フランスの実存主義の哲学者であり
作家であるサルトルの名作「嘔吐」まで、縦横に筆を走らせ、
まさに、誰しもの心のうちに錯綜する「人生の不安」の正体を
浮き彫りにしようと試みた珠玉のエッセイです。
続きを抜粋紹介しましょう。

           *

私の場合不安は、いつ起るかわからない
目まひの発作と結びついてゐる。
よくメニュエル氏病の発作は周期的なもので、
月に一度、週に一度といふ具合
に、ほぼ一定の周期でまはってくるといはれてゐるが、
これは私にはまったく
当てはまらない。毎日のやうに起つてみたり、
半月ぐらゐ間があいたり、また六箇月以上も何ともなくて、
これで治つたかと思つてゐると、不意にまた始つたりする。

初めて発作の起つた頃は、イキナリ天井や壁が
ぶーんぶーんと唸るやうな感じで激しくまはり、
眼の前にある時計が左から右に流れて
針が何時を指してゐるか読めないくらゐであつた。
一番気持の悪いのは、明け方、まだ眠つてゐるときに起る発作で、
灰色の眼蓋の中で何かがグルグル廻つて目を覚す。
思はず飛び起きようとするのだが、体が言ふことをきかない。
それでも無理に起き上がると、
とたんに何かで薙倒されるやうに引つくりかへつてしまふ。
かういふ強烈な発作の度び重なるうちに、
だんだんそれは緩かになつてきた。
寝てゐて眼をひらく、と天井がもやもやと煙つたやうになつて、
オヤと思ふうちにグラグラと動き出し、
畳や蒲団が舞ひ上つて、
体ごと何処かへスーッと持つて行かれさうになる。
発作のときは、目が廻るだけでなく、
体の中心が捩くれて
内臓の胃袋から腸までが一緒に廻り出すらしく、
内側から突き上げられるやうな嘔吐感に襲はれる。
これが、二時間から、長いときは十時間以上もつづいたあげく、
胃液や胆汁まですつかり吐き出したあとでやうやく収まる。

かういふ発作の原因は、医学的に一応のことはわかつてゐる。
つまり、内耳の奥にリンパ液といつて
涙のやうな海水のやうな塩分のある液が溜つてをり、
そこに三半規管と称するものが浮かんでゐて、
これが人間の平衡感覚をつかさどつてゐるのだが、
リンパ液が溜まりすぎると、
その三半規管が正しい位置を保てなくなつて、
目が廻るといふわけだ。
しかし勿論、こんな説明を何度聞かされても、
それで目まひが収まるわけではない。(以下略)

        *

ちなみに、メニュエル氏病とは、
自分や周囲がぐるぐる回るようなめまいの発作が
繰り返し起こる病気で、聴力低下や耳鳴りを伴うもの。
内耳のリンパ液の産生量と吸収量のバランスが崩れることにより
起こると考えられています。
メニュエル氏病の原因は、過度のストレス、
特に睡眠不足と冷えと過労といわれ、
最近、働き盛りの世代に増えている症状です。
心身ともにリフレッシュし、ストレスを解消する、
睡眠時間を充分にとる、
忙しくなる期間の前後にはできるだけ休養をと。
ゆとりのある生活を心がける・・・といった、気分転換、
心身の生活習慣を、
時間をかけて改善することが大切なようです。


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2007年4月21日(土)

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