第336回
なぜ、いま患者学なのか?
最近出版されるガンの本を見ていると、
ただ生死の際をさ迷う、
お涙頂戴式の苦闘記というパターンではなく、
前回紹介した元朝日新聞の大記者・本郷美則さんのように、
自らの前立腺ガンの記録を冷静に分析し、
医師顔負けの専門医療データを駆使してガンを克服していく。
それだけでなく、のちに続く患者のために、
治療選択の賢い知恵を書き残すタイプが増えてきました。
こうした本を僕は
「患者学」というジャンルで分類して評価しています。
いま発売中の拙著「ガン患者よ、ドクハラと闘おう!」も
闘病記ではありますが、
医療を患者の手に戻そうという患者学読本なのです。
では、なぜいま患者学が読まれ出したのか?
久病良医(きゅうびょうりょうい)、
つまり、長患いをした患者ほどよき医師になるという
中国の諺については、
このコラムでもなんどか書いたことがありますが、
有名外科医のメス捌き自慢のガン解説書を読んでも、
「どうやらガンは治らないらしい」と
患者も気づいてきたからでしょう。
また年間30万人、毎週6000人の人が命を落す時代ですから、
ガンは一部の人が被る災難病、
いやお涙頂戴の他人事では済まなくなってきたこともあります。
このコラムの表題ではありませんが、
「気がつけば、あなたもガン」
これが現実ですから、
先にガンを体験した患者による、
治療体験と治療データがことこまかに綴られた
いわゆる「患者学」の本が
貴重なガン治療の情報源として珍重されるようになったのです。
これまでガンの読み物といえば、
有名タレントの語り下ろし「お涙頂戴式の闘病記」、
末期ガン患者の涙の美談ノンフィクション、
さらに手術や最先端治療の名医の自慢話、
いや「○○キノコでガンが完治した」といった秘薬PR本…
こうしたものが大きな書店の書棚を占拠していました。
しかし、どれもこれもガンという病気を
まるで他人事のように扱っているところに
多くのガン患者からすれば物足りなさを感じていたわけです。
医師のガン解説書にしても、
ガンの経験のない執刀医の自慢話より、
ガンに罹ってその痛みや苦しみを体感した
医師たちの闘病本に説得力を感じるのは、
これも生の「患者学」の本だからでしょう。
竹中文良さんの「医者が癌にかかったとき」などは必読書です。
実験動物材料のような治療データを掲げて
得意然としている外科医や内科医のガン解説書より、
よほど患者と家族にためになる知恵をもたらすからです。
そうは思いませんか?
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