第186回
遠藤周作さんの本を読んだことがありますか?
どんな偉い学者の科学書を読んでも、
「患者が生甲斐を見出した途端にガンが治った」
といった自然治癒力の「奇跡」については、
明快に答えを出した読み物はありません。
また「奇跡」の源泉であろうと思われている
宇宙、自然、人体の空間に流れる
生命エネルギーの空間場の仕組み、
東洋医学でいうところの
「気」や「気場」といったものの謎は皆目、分かりません。
一方、近代日本の医学・科学は、
もっぱら富国強兵や産業立国のための
実用技術として欧米から輸入し、
学問を発達させましたから、
「科学・医学」と「哲学・宗教」を
混同するなどトンでもないと、
学界や医学界で考えられてきました。
いまだにこの発想は主流です。
ところが、欧米などでは無限宇宙のカオス(混沌)の状態を知り、
一転して、ミクロのDNA螺旋の構造を見るにつけ、
あまりの万物生成、生命誕生の不思議さに恐れおののき、
神やサムシンググレートの存在を思い知らされる…
そうした科学者が増えているようなのです。
僕は作家の遠藤周作さんの作品が好きで、
いまでも読み返すことがあります。
肺疾患などの闘病で苦しんだ遠藤さんの作品には、
命の神秘、そして神との対話といった
テーマが数多く見られますが、
「沈黙」に続く「深い河」という小説では、
どうしてもキリスト教の教条主義に納得せず、
インド・ガンジス川の火葬場で葛藤する日本人神学生や、
妻の輪廻転生を求めてさ迷う夫を描くことで、
宇宙無限の生命場の中で、わが命はどうなるのか?
そうしたテーマが幾重にも描かれていて、
じつに病床で読んでいても興味深い作品でした。
遠藤さんには現代科学の謎解きに飽き足らない、
スーパーサイエンスな科学者や医師と歓談する、
心の対談集や随筆が何冊かありますから、
ぜひ、賢い患者の知恵を磨くために、
お読みになることをすすめます。
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