第4416回
私が漢方に強烈な関心を持った背景
子供の頃、風邪をひいて熱を出すと、
明るいうちに日本人(当時は内地人と言われました)の
西医(西洋医学のお醫者さん)のところへ連れて行かれて、
注射をされた上にアーモンドの甘味のある飲み薬を飲まされました。
でも夜になると、
漢医(漢方のお醫者さん)が調合してくれた土鍋で
ゴトゴト煮る苦い薬草の汁を飲まないと
眠らせてもらえませんでした。
そのどちらが効いたのかは私にもわかりません。
オトナになってから気がついたことは、
私は西方医薬と東洋医薬のハザマに生まれ育ったということです。
日本の影響を受けて、台湾でも漢方は片隅に追いやられましたが、
本島人と呼ばれた台湾の人たちは
中国大陸から移民してきた人たちですから、
何千年という歴史の中で育った自分たちの医学に
頑ななほど強い信頼感を持ち続けており、
終戦によって日本人が自分たちの国に戻るまで、
ずっと漢方を見捨てることはありませんでした。
ですから、もう半世紀も前のことですが、
ドイツやアメリカの醫学会で、漢方を見直す動きが出て来た時、
「さもありなん」とすぐに反応して、
シロウトの私までが「食前、食後、漢方の話」の本を書いたのです。
「食前食後」とはお医者さんからもらった薬の袋に
必らず印刷されている文句ですから、
私は口に入れる薬よりも、
口を動かしていない時の話題と考えてタイトルに使ったのです。
そういう環境に育ったせいもあって、
私は20年前、日本の企業を誘って中国で投資をスタートした時、
食べることについで最も関心を持ったことは、
「漢方はどこまですすんだのか」
「できれば、中国の一流の漢方医
(中国では中医と言いますが)と知り合いになりたい」
ということでした。
身体にナイフを入れる外科ではうんと遅れをとっていますが、
ナイフを使わないで癒す医術については
色々と教えてもらうことがたくさんあるのではないかと思ったのです。 |