第3196回
欲しがりません、他人のお金は
私が兜町の成長株の話をはじめた頃、
日本ではやっと投資信託が売り出されたばかりでした。
野村證券がその先頭を切り、
山一、日興、大和がそれに続きました。
投資信託が売り出される前は、
兜町でも相場がどうなるかについて
証券会社の人たちがあれこれ論じていましたが、
投信が普及するに従って
弱気を唱える証券マンは次第に姿を消してしまいました。
内心、弱気の人でも、相場が悪くなると言うと、
投信が売れなくなるから、
本当のことを口にする人がいなくなってしまったのです。
投信は投資についてシロウトの人からお金を集めて有望株を買い、
そこから上がる利益を分配するシステムですが、
いくらクロウトがやっていると言っても、
お互いに先が見えないのですから、
どうしても危険分散のために色んな株を買って平均化を図ります。
銘柄も世間が一流株と見なしている株を中心にして
小型株や無名株は敬遠しますから、
ちょうどダウ平均を買っているようなものです。
当然のことながら、産業界が成長過程にあり、
景気が上昇中であれば問題がありませんが、
その逆のことも起り得るわけですから、
いつも好調が続くわけでもありません。
でも株をやる人は不況の時でも
うまく不況の波を乗り越えられると考えがちですから、
株の名人と言われる人に期待をかけます。
私が「株の神様」とあがめられた時は多くの人が私のところへ来て、
「邱永漢投信やりませんか」と盛んに私を口説きました。
「お金を集めるっていくらくらい集めるのですか?」
と私はききかえしました。
「とりあえず30億円ではどうでしょうか」
と即答されました。
もう40年も前のことです。
「30億円を儲けて60億円にしたら、私にいくらくれるんですか?」
と私はききかえしました。
「そうですね。
倍儲けたとしてその1割にあたる3億円をQ先生への報酬とし、
残りの27億円を投資家たちの配当にまわしたらどうでしょうか?
そう悪い話ではないんじゃないでしょうか?」
そう言って相手は私の顔を覗き込みました。
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