第2918回
海外投資については株のプロもビギナーです
いまから50年前、私が文士としてはじめて株に手を出した頃、
多くの堅気の人たちの頭の中で、株はバクチの一種であり、
借金と同じように、危い橋を渡ることだと考えられておりました。
「株をやってはいけない」
「どんなことがあっても借金の保証人をやってはいけない」
というのが親から遺された我が家の家訓ですという人が
珍しくありませんでした。
ですから文士の片割れがお金の話をするなんてとんでもない
という気風がジャーナリズムの世界に強く残っており、
私がお金の話をしたり、株の話をしたりすると、
まるでふしだらなことをやっているように思われ、
「あいつの直木賞はとり返せ」と銀座のバーで
酒の勢いに任せて大声で叫んだ有名な文芸評論家の人もおりました。
色気や不倫な話を書くのは文士の特権であり、
お金の話をするのはタブーだったのです。
それに対して、
私はお金は人間が生活して行く上で大切なものであり、
日本人にとってもっと知る必要のあるものだと思っていましたし、
ちょうど高度成長経済がスタートを切ったばかりの時だったので、
いまにみんなが株に馴染むようになるだろうと
確信を持っていたので、
世間の圧力を気にしないで、
執筆のジャンルの一つとして採りあげたのです。
その頃に比べると、
株の大衆化と借金をしてマンションを買ったりすることは、
サラリーマンや家庭の主婦にとっても常識になってしまいました。
株をやる人に対して、
「証券会社の人の言うことをきいてはいけない」
「ダウ平均がいくらかなんて気にするな」
「借金をして株をやってはいけない」
と私はずっと言い続けてきましたが、
いまの日本は「株の大衆化の時代」はとっくに通りすぎて、
どうやら
「小金持ちになった日本の大衆投資家の
海外投資の時代がはじまろうとしているところだ」
と認識を新たにしています。
しかし、50年の経験を積んだ人たちが
海外投資をはじめたのではなくて、
株の新入りの投資の舞台が海外に拡がっただけのことですから、
辛抱してつきあう必要があるなあ、
と自分に言いきかせているところです。
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