中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第2714回
日本の物づくりにも老化現象が

日本のような産業の先進国は
コスト・インフレで商売が難しくなったら、
資本と技術を持ってもっとコストの安い国に工場を移し、
国内の工場では
もっと高度の技術を必要とする商品づくりをやればよいと
多くの人が単純に考えてきました。
中央研究所も本社に残し、新製品は本社の仕事、
と考えてきたのです。

ところが、高度の技術を後生大事に本社に残した企業よりも、
高度の技術を
コストの安い地域にいち早く移した企業の方が成果をあげているし、
出し惜しみをした企業は
本社に残した仕事もあまりうまく行っていません。
どうしてかというと、
新しい技術や改善は生産の過程で思いつくものであって、
研究所や温室のような生産工場で生まれるものではないからです。
本社に蓄積されている技術にしても、
創意工夫して生産をやっている過程で誕生したものですから、
幼稚な見様見真似からはじまって
次々と量産の工夫をしている海外工場の方に
そういうチャンスが訪れることが多いのです。

ですから10年たって見ると、
技術移転の出し惜しみをした企業は海外での競争で遅れをとるし、
本社の方も老齢化がすすんで
アイデアの泉が枯れてなくなっていることが多いようです。
むしろ進出した先の方が元気がよくて、
本社に教えることも多くなりますから、
いっそ、本社の方が出先の後を追って海外に引越した方が
時代に遅れなくてすむということすら現実に起っています。

というわけで、経済が停滞しはじめると、
もっと先に進むエネルギーが失われて、
企業全体の老化がはじまります。
相撲部屋の年寄りたちと現役の弟子たちの実力に
次第に大きな差がついてしまうようなもので、
日本の産業技術に衰えがないと思っているうちに
現場に追い越されてしまうことが多くなるのです。
いま日本の生産事業界にも、
デパートやスーパーに起っているような衰えが
目立ってきたのではないでしょうか。
それは産業界だけでなく、
政治や教育の世界にも浸透しつつあると感じているのは
私一人だけでしょうか。


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2007年8月15日(水)

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