中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第2185回
底辺でバランスのとれた感じの国です

デリに足を踏み入れて、十何年前と一番変わったことは
自動車の数がふえたことです。
これはデリ以外のほかの都市についても言えることです。
スズキの小型車が一番たくさん走っていますが、
これは鈴木自動車が早くから進出して、
国内で大きなシェアを占めているせいでしょうが、
小型車がインドのあまり整備されていない道路事情と
低い所得水準にぴったりしているせいもあります。

むろん、一般の人の乗る乗合バスはもっとずっとお粗末で、
定員をこえて詰め込んでいるだけでなく、
ドアの外にぶらさがっている光景もよく見かけました。
低成長国ではよく見かけるので
さして珍しくありませんが、
インドで私が一番感心したのは、
おびただしい数の車が大小入り乱れて錯綜しているのに、
八日間いたあいだに
交通事故の現場に一回も出食わさなかったことです。
インド人の運転手は
ターバンまいたり、鬚を長々と垂らしていますが、
どの人も運転の名手で、
オートバイや自転車や徒歩の人がバスの前に突然、
とびこんで来ても少しもあわてず、
巧みにブレーキをふんだり、ハンドルをまわして
僅かのスキマを平穏無事にくぐり抜けて行きます。
もし東京まで連れて来られるものなら
自分の運転手にやといたいと思ったくらいです。

ガイドの人も冗談半分に
「インドで一番悪いのは政治家、
二番目が警察、三番目がガイド」
と言っていましたが、
強力な行政能力を持った政府に恵まれず
多事多難の国情であるにも拘らず、
雑然として低辺でバランスのとれたところだという
印象を受けました。
それでも年6%の成長が続いていると
インドの人は自慢していますが、
大多数の人があまり文句も言わず、
貧しい生活に甘んじているのは宗教のおかげなのか、
それとも長い歴史の中でしぜんに備わった諦観から来ているのか、
町に新しい高層建築が見当らないように、
人々も忙しく立ち廻っているばかりで、
「上を向いて歩いて」いるようには見えませんでした。


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