第1887回
安売りも限界に来てしまったようです
世の中が豊かになると、
いままでなかなか手に入らなかった物が
すぐ手の届くところにあるようになります。
半世紀前に私が東京に来た頃は、
トヨペットが1台100万円していました。
月給が1万円前後でしたから、
自動車1台手に入れるのに、
飲まず食わずで100ヵ月分、
つまり8年以上働かなければなりませんでした。
いまなら1年分の収入で
おつりの来る車がいくらでもあります。
テレビや冷蔵庫についても同じことが言えます。
テレビは15万円くらいしました。
冷蔵庫は7、8万円でした。
いまでは普通のテレビや冷蔵庫なら
1ヵ月分の収入で
両方とも手に入ってしまいます。
そうなると、どちらも
人の欲しがる物でなくなってしまいます。
ではどちらが人間にとって
しあわせなのかというと、
どちらとも言えません。
半世紀前なら、なかなか手に入らないものが
やっと手に入ったという喜びがありました。
いまでは容易に手に入るようになりましたから、
テレビや冷蔵庫を買ったくらいのことでは
嬉しくもどうもありません。
自動車ならまだ少しは
満足感を覚える若い人もあるでしょうが、
物質的な満足感ていどでは
満足しない人がふえる方向に
世の中は変わりつつあります。
そうなると、これらの物が
不要になってしまうわけではなく、
もっと容易に手に入るように
業者間でもっと安く提供するようになります。
安ければ買う人がふえますから、
業者が皆で安売りの競争をするようになるのです。
ところが、安売りが時代の風潮になると、
消費者が安売りに鈍感になって
いくら安く売っても
そっぽを向くようになってしまいます。
業者にとっては自分で自分の墓穴を
掘ってしまったようなものです。
昨今の物の売れ方を見ていると
安売りで物の売れる市場のスキマを
業者同志で競争して
ほぼ埋め尽してしまった観があります。
もはや、どんなに安売りをしても
効果がないばかりでなく、
営業そのものが行き詰まりつつあります。
バブルがはじけて15年、
どうやら日本の国が
そうした時点に到達してしまったようです。
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