第1720回
温州はとても利用価値があります
温州はこれまでに何回も行きましたが、
それでもまだ時々、
行ってみたいなあと思うことがあります。
温州は世界中の同業者の商売を
奪いとる立場にありますが、
温州の同業者同志の間では
もっと壮絶な競争をやっていて、
やり方次第ではとても利用価値があるからです。
温州の町の中にある有名ブランドの店には
ほとんどお客の姿が見当たりません。
ロンドンやパリの本店と同じ値段では
こんな所得の低い町にお客があるとは思えませんが、
それでも店をひらいているのは
有名ブランドの下請けをしている工場を探がして
新しく世界中からやってくる有名ブランドの業者に
その存在を知ってもらうためではないかと思います。
店は商品を売るためではなくて、
仕事をもってきてくれる
外国のファッション・メーカーに見せるためだ
ということに私にもすぐにわかりました。
お客の来ない立派な店を構えるのは大へんなことですが、
ヨーロッパやアメリカや日本などの
下請けの仕事をもらうことはもっと大へんなことです。
たまたま私の知っている人で
この町でカバンの製造工場を経営している人がおりました。
きいてみると、バイヤーもさるもので、
何社にも声をかけて見積りをとり、
その中で一番安い業者を
更にとことんまで叩いて発注するのだそうです。
ですからスーツ・ケースや手提げカバンを受注して
コンテナ1台分の商品を送り出しても、
やっと1万元(1元は13円)の儲けしかないことが
しばしばだということです。
私の知人はさすがに愛想がつきて、
工場を親戚に任せ、自分は上海へ出て
不動産の仕事をしていますが、
外から見るのと内部から見るのとでは
かなり事情が違うようです。
しかし、こういう下請けがあれば、
やり方によってはうまい商売ができる可能性は
いくらでも考えられます。
隣りと同じ商品をつくって
値段で勝負するからいけないのであって、
消費者の慾しがる商品を開拓して
付加価値を生む工夫のできる人にとっては
とても耳寄りな話ではないかと思います。
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