第1562回
世界の景気が恢復しているわけではありません
長い間、経済の沈滞が続いたので、
ちょっと素材産業の需要が上向きになったり、
アメリカの就業者数がふえたりすると、
景気の恢復が本調子になったという声が
あちこちできかれるようになりました。
とりわけイラクの戦争が終結したにも拘らず、
石油の騰勢がおさまりそうもないので、
インフレを懸念する動きもあって、
アメリカで利息をあげる気配が
濃厚になってきました。
アメリカで金利があがると言っても、
ほんの僅かにすぎませんが、
世間を動きまわっている游資は
莫大な金額にのぼるし、
それがドッと投機にまわってくるので、
噂だけでもドルが買われて、
円をはじめ他の通貨が売られるようなことが
現実に起っています。
ならば底を打った景気が上昇に転じて
世界中が活気をとり戻すかというと、
アメリカの景気の恢復が雇傭を促進し、
設備投資を増大させるかというと、
ちょっと首をかしげたくなります。
どちらかというと、
情報化産業の発展によって
人件費を節約することで
収益増を維持してきたアメリカが
一転して雇傭をふやすことになるとは考えられず、
素材産業や農産物の逼迫による雇用増は
一時的現象にすぎず、
ガソリンの値上がりや
金利の引き上げ(もしあるとすれば)が
消費を圧迫する可能性の方が
ずっと高いと私は見ています。
貿易赤字と財政赤字のほかに
イラクのツケが重なって、
アメリカの借金はふえる一方ですから、
それが景気を刺戟することにはならないでしょう。
物がいくらでもできて、
安い値段でいくらでも供給ができるのですから、
世界中がインフレに見舞われると考えるよりも、
デフレの恐怖にさらされていると考えた方が
正しいと思います。
にも拘らず、石油の値段が上がったり、
鉄、石油化学製品、アルミ、
セメントなどの不足が起っているのは
高度成長の只中にある中国で
素材産業が需要を賄い切れないでいるからです。
投資ブームが巻き起こした
一時的な異常現象と説明されていますが、
私はもう少し違った説明が必要だと考えています。
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