第1558回
難しい時代を生きるには奇策と楽観
史記の「貨殖列伝」の中に
「節倹、勤勉、奇策」という言葉が出てきます。
司馬遷の書いた史記はご承知のように、
漢の高祖になった劉邦と争った
項羽が戦いに敗れて
虞美人と死別する「覇王別姫」をはじめとして、
諸列侯や世家の歴史を主として記述していますが、
その一章に、領地も持たず、爵位も持たず、
只々商いに徹して王侯貴族に劣らない富を苦積し、
豊かな生活を送った富豪たちのために
一章を設けています。
いまの時代を生きる人たちにとっては
王侯貴族や武力を以って
天下を制した英雄たちよりは
むしろこうした金儲けのチャンピオンの生き方が
興味をそそられるのでしょう。
司馬遷によれば、
「富を得るにはどんな職業でもよく、
財貨も常に特定の持主があるわけではなく、
才能のある者には財貨が集まり、
不肖の者は苦積した財貨さえ忽ち消散してしまう」
しかし、金持ちになった人たちには
共通した特長がある。
「節倹と勤労は生計を維持する上での正道であるが、
富豪は必ず奇策を用いて人を凌いでいます」
今日の言葉で言えば、
人が思いつかないようなアイデアで
勝負をしているということです。
事業に成功するためには
人の思い及ばないようなアイデアが必要なことは
昔も今も変わらないことがわかります。
そこで額に入れるために
「節倹、勤勉、奇策」という文句を選びました。
また生前の小平がサインを求められると、
好んで「楽観」と書いたときいて
何人かの書家に
「楽観」「楽天」と二字で書いてもらいました。
そういう説明を聞くと、あわて者の中には
「これ、小平の字ですか」とききかえす人もあります。
「いいえ、小平さんの本物を見たかったら、
故宮博物館に行って下さい」
と説明した人は笑って答えていましたが、
それでも小平が好きな文句ときいて
「じゃ、うちにもかけることにしようか」
と買って帰った人が何人かいました。
説教ではなくて、
とりあえず人生を生きて行く上で、
励みにになるような文句は
気分をよくしてくれますね。
なお書の入手については
「金言名句解説」のコラムをごらんになって下さい。
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