第1487回
ハヤるところにもっと力を入れよう
日本の名店直伝のとんかつを
メニューに新しく加えて宣伝したのはいいけれど、
職人も習い立てなら、
料理屋もとんかつ店専用に設計されていないので、
来る客、来る客がとんかつを注文すると、
たちまち間に合わなくなって、
お客を待たせるだけでなく、
注文を断わることになってしまいました。
お客も怒るけれど、
つくる職人も悲鳴をあげて
辞めさせてくれと言い出します。
この不景気の世の中で
サラリーマンを辞めて職人の修行をして
やっとこれから芽の出るところまできた人間が
初志を貫かなくては何の人生か、
これには黙ってはおられません。
双六で賽の目が「振出しに戻りなさい」と出たら、
その度にまたはじめからやりなおしでは
人生いくつあっても足りないぞ
と怒鳴りたくなります。
専門のとんかつ屋として成り立つためには、
1日に200人分くらい
こなせるようにならなければ駄目だ、
まだ50人前しかできないのに、
こんなところで音をあげる奴があるか。
次は1日に100人前あげるためには
何人、人がいて、どんな段取りでやればよいか、
自分たちだけで工夫するのが次の仕事じゃないか。
なだめたり、すかしたりして、
少しずつお客の注文に応じられるように
改善してもらうと、
注文がふえた分だけ売上げもふえるし、
ほかの料理の注文もふえるから、
お客の数もしぜんにふえる。
するとおかしなもので、
店も活気づいて、昼飯時、
いままでは満席にもならなかったのが、
人が並ぶようになる。
人が並ぶようになると、
早く行かなくちゃ、と
早くから人が集ってくるようになって、
1回転していたのが、1回転半、
更には2回転となって、
サラリーマンの昼飯で辛うじて店を支えていたのが、
昼飯だけで何とか辻褄があうようになってくる。
それに比べると、夜が全然、駄目じゃないか。
何とか店のお客をふやして、
お昼に負けない客足をふやす方法がないものだろうか。
誰でもレストラン商売をやる人は
そういう発想をしがちですが、
傍らで見ていて、
私はもっとお昼に力を入れたら、
とアドバイスをしたのです。
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