第1486回
とんかつが古い店の新しい売り物に
ちょうど少し以前に、
「かつ好」というトンカツ屋に
修行に行かせた日本の青年がおりました。
台湾大創で働くために
日本から応募した青年ですが、
店長をやるには不適当だと言われて
日本に戻ることになっていたのを私が知って、
その理由をただしたら、
同時にいくつものことには
頭がまわらないからと言うことでした。
でも私が見ると、
一つのことに打ち込んで
一生懸命やれそうな性格だったので
「とんかつの職人になる気はありませんか?
やる気があったら、
どこか修行をするところを探がしてあげますよ」
と提案したら、
その日のうちに
うちのビルの中にある日本料理屋に
とんかつを食べに行って
「僕にやらせて見て下さい」と申し出たので、
これなら脈があるぞと思って、
日本に帰して1年ほど
庖丁の持ち方から勉強してもらったのです。
その青年がまた台湾へ戻ってきて、
「寿楽」というその店で裏方をはじめたので、
とんかつは年寄りよりも若い人の食べ物だから、
若い人に来てもらうために、
安値でとんかつを食べてもらうメニューを
追加してもらったのです。
ところが、これが物の見事に裏目に出て、
若いお客が大してふえないのに、
250元の定食を食べていた老人たちが
150元のとんかつを注文するので、
来客がふえなかったばかりでなく、
昼食の売り上げが逆に減ってしまったのです。
この調子では30年続いた店も
いよいよこれで店じまいだなと覚悟しましたが、
最後の一ふんばりとして、
既成概念のない、
全く新しいシロウトの若い人に
店の改造を任せて見たのです。
そうしたら、
古いお客の年齢層を調査した上で、
年寄りのお客をそっくり残した上に、
メニューを一新して、
若い人とサラリーマンに
宣伝することを思い立ったのです。
ちょうどそこに台湾の美食雑誌が取材に来て、
「日本帰りのとんかつ職人のとんかつはおいしいぞ」
と書き立ててくれたので、
とんかつ好きの台湾の人たちが
一挙に押しかけてきて
てんやわんやになってしまったのです。
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