第1256回
温度はハイテクの新しい分野かも

水蒸気の温度を
常識をこえる高温まであげるだけで、
いままで考えてもいなかった
瞬間殺菌ができるようになったのを見て、
私はふといまから1000年前の
景徳鎮のことを思い出しました。
それまでの焼き物は水を入れると
中からにじみ出てくる陶器でしたが、
1300度の高温で焼くと、
今日、私たちが使用しているような
磁器になることが発見されたのです。
できあがった製品を時の景徳帝に献上すると
いたく欣賞され、
地名も景徳鎮と名乗ることを許されました。
世界中から貴重品扱いをされた磁器に
チャイナという名前がつけられ、
磁器の名前が地名を代表するようになったのは
それからのことです。

チャイナは1000年前の中国人が発明した
ハイテクの技術でした。
景徳鎮はその製法をひたかくしにかくして
外部にもれないようにしたので、
製品だけがラクダの背に乗せられたり、
船の中に積み込まれて西へ西へと運ばれて行き
ヨーロッパの王侯貴族や富商たちに愛好されました。
いま私たちが珍重しているマイセンやヘレンドや
ロイヤル・コペンハーゲンの陶磁器は
宋代以降の中国磁器の再現をするために
血みどろの苦労をした結果、
ヨーロッパに誕生した物です。
そのきっかけをつくったのは
温度に対する常識をくつがえすことからはじまっています。

その後、温度の技術は専ら製鉄や特殊鋼や
ガラス・セメントの生産加工に応用されて
今日に至っています。
まさかそれを食品の殺菌や消毒に
使用すると思っていなかったので、
言われて見れば、水ですから副作用もないし、装置も簡単だし、
まさに「コロンブスの卵」みたいな話ですね。
前に新技術として紹介した
石油のオリを石油と砂に分解する
オイル・エクストラクターも
500度の水蒸気を使用していますから、
もしかしたら温度を利用する技術は
残されたハイテクの1つの分野ではないかと
閃くものがありました。
もしそうだとしたら、
町の発明家たちも温度に目を向けたら
新しい分野が次々とひらけて行くのではないでしょうか。


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2003年8月18日(月)

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