第1248回
そう言われてはじめて気がつきました

言葉は生き物ですから、
時代と共にドンドン進化します。
しばらく外国に行っていた日本人が
日本へ帰ってくると、
若い人が何を喋っているのかわからないと
きかされたことが何回もあります。
自分たちが喋っている日本語が
由緒正しい日本語であると信じて疑わないお年寄りたちは
日本語の乱脈ぶりをしきりに嘆きますが、
新しい文化が次々と外国から輸入されてきたり、
生活感覚に変化をもたらすような出来事が起ったら、
表現が変わったり、新語ができてきたりするのは
別に不思議なことではありません。

旧カナ遣いや新カナ遣いができるのも
世の中に変化が起った証拠だし、
漢字に略字ができたり、
カタカナがやたらに多くなったのも
そうした変化の一環です。
ふだん使っている言葉遣いの変化を見ると、
日本の国に何が起っているかわかります。
にも拘らず昔からある言い廻わしが
そのまま残っているのを見ると、
日本人の国民性や精神状態に
変化がないことがわかります。
ですから私は、
「いまに日本人が日本語に
興味を持つようになるんじゃないんですか。
日本語の本がブームになる時が必らず来ますよ」
と出版社の人たちに注意を促したことが
何回もありました。

たとえば、日本人が
1番頻度激しく使う日本語は何かおわかりですか。
それは「気」という字のついた言葉です。
人と挨拶をする時に日本人は
先ず天気のことを話題にします。
「今日はいいお天気ですね」
「お暑うございますね」「お寒うございますね」。
それから転じて
「お元気ですか」「ご気分いかがですか」
「気の滅入るようなお天気ですね」と
「気」のついた言葉がやたらに出てきます。
「気が大きい」「気が小さい」「気持が悪い」
「気配りがいい」「気が向く」「気が遠くなる」
「気にかける」「気に食わぬ」「気に病む」
「気を失う」「気を使う」「気をおとす」
といくらでも頭に浮んできて、
そう言われてはじめて気がついた
というのももちろん気のつく言葉です。
気とはもともと目に見えない
空気にようなもののことですから、
日本人は目に見えない情緒的な国民であることを
私たちに教えてくれます。


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2003年8月10日(日)

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