第1247回
言葉の使い分けをマスターしましょう

「殿」という呼び方は
殿様がいなくなってしまったので、
とっくの昔になくなってしまいましたが、
なぜ藩主のことを「殿」と呼んだかというと、
藩主は下々の者から見たら、
御殿のような立派な建物に住んでいたからです。
日本では高貴の人に面と向って
「あなた」とか「そなた」とか呼びかけるのは
失礼と考えられていたので、
その人の住んでいるところをそれに代用させたのです。

「殿下」という言葉はいまも
皇太子以下の皇族の呼称として生き残っていますが、
陛下とか、閣下という呼び方も皆、
同じ系統の発想から生まれたものです。
身分の高い人は見上げるような建物の上にいます。
遥か階段を上がった上にいる人に直接、
話かけるのはおそれ多いので、
階段の遥か下を指して、
その上にいる人を意味したのが
「陛下」という言葉の由来です。
本当のところ、こうした名称は封建時代の遺物ですから、
如何にも親近感がなく、
最近では「天皇様」とか「皇太子殿」
という呼び方がふえているようです。

ならば、主語を抜かした言葉づかいはやめて、
英語や中国語のように、
「あなた」でも「貴殿」でもおかしくはないでしょうが、
言葉にはそれを使ってきた歴史や伝統があります。
「あなた」とか「そなた」とか言うのも、もとを言えば、
目上の人と目下の人を使い分けた呼び方です。
ですから「あなた、あなたなんて言ってけしからん」
ということにはならない筈ですが、
それは家庭で下働きをする人が
女中さんと呼ばれたがらないのと同じです。
女中は御殿女中からはじまった言葉で、
いまで言えば役所で働いている女性のことです。
職業婦人がOLになったように、
言葉のランクが下がると嫌われてしまうのです。
そういった意味では「貴様」がぞんざいな呼称になったように
「あなた様」も敬語の部類には入らなくなってしまいました。
そういう微妙なところを上手に使い分けられないと
上の人の覚えがめでたいというわけには
行かないでしょうね。


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2003年8月9日(土)

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