第1246回
目上に「あなた」を連発するのはなぜ?

挨拶の仕方も知らない若い人がうんとふえました。
親がちゃんと教えないからだと思いますが、
もしかしたら親の方も知らないのではないか
と疑うようになりました。

日本語はふだん喋っている言葉なので、
日本人にはやさしい言葉かも知れませんが、
オトナになってから学ぶ外国人にとっては
かなり難しい言葉に属します。
先ず同じ意味の言葉にいくつもの言い方があります。
自分のことを英語なら「I」(アイ)、
中国語なら「我」(ウオ)、
と1つの言い方しかありませんが、
日本語では、わたし、わたくし、僕、俺、我、余、
拙者、吾輩、それがし、手前、うち、などなど
いくつもの表現法があります。
「あなた」についても、
それに負けないくらいたくさんあります。

日本人は時と場合と話しかける相手によって
巧みに使い分けます。
どうしてかというと
日本語では目上の人に対して使う言葉と
同輩もしくは目下に対して使う言葉に区別があり、
また男が使う言葉と女の使う言葉が違うからです。
いずれも日本の社会が身分制の社会だった名残りであり、
その使い分けができないと
メシにありつくこともできなかったのです。

たとえばサムライ社会で1番偉い人は藩主です。
藩主の上にはまだ将軍がいて、
その意向によって大名は領地を移動させられたり、
お家断絶になることもありましたが、
国へ帰れば1番偉い人は殿様と呼ばれていました。
殿様に対して口をきく時は、
もちろん、敬語を使いますが、
殿と呼ぶことはあっても、
直接、あなたに相当する言葉を
口に出すことはありませんでした。
面と向って目上の人に「あなた」と呼びかけるのは、
日本では失礼にあたるとされてきたのです。
この伝統はいまも日本人の社会に生きています。

ところが、私のところに来る手紙を見ると、
平気で「あなた」とか「貴殿」とか
連発しているのが珍しくありません。
これ、英語から直訳したのでしょうか。
主語を抜かすのが日本語の正しい使い方であることを
知らないらしいのです。


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2003年8月8日(金)

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