第1178回
私の読む本はベスト・セラーズではありません
本屋に行って本を選ぶ時、
最っ先に目につくのは、
自分がふだんから関心を持っていることについて
書かれた本です。
ですから多くの人の関心事に焦点を合わせた本を書けば
ベスト・セラーズになります。
しかし、ベスト・セラーズをつくるために
いつも人々の関心事のあとを
追い続けるわけにも行きません。
出版社ならそれでかまいませんが、
著述をやる人はそんなに器用ではありませんし、
能力にも限界があります。
だからどんなにベスト・セラーズをやった人でも
そのうちにみんなから忘れられる存在になってしまいます。
私は自分自身が本を書く職業に従事していますが、
その時々、私が関心を持って読む本があります。
それは必ずしも世間の関心事と一致しているとは限りません。
自分だけが関心を持っていることもたくさんありますが、
どちらかと言えば、これから起るであろう出来事に対して
少し先廻りして関心を持っている場合が多いようです。
たとえば私が老齢化について新聞連載をやったのは
昭和42年のことで、当時、私はまだ43才でした。
まだ老人の自覚を持つには早すぎる年齢でしたが、
私は老齢化社会の到来を予測して、
年金をもらう人ばかりふえて
年金を払う人が少くなったら、
年金がもらえなくなり、
会社だって退職金を払うのに
四苦八苦するようになると指摘しました。
私がアドバイスしたことは
「国もあてにするな、会社もあてにするな、
年をとってから困らないように
若いうちから自分で自分のお金の心配をしろ」
ということでした。
若い時に私の本を読んで
本気になって対策を練った人たちから
挨拶されることがいまでも再三ならずあります。
私にして見れば、35年も前に
老齢化社会に関する本を探がしたのですが、
そんな本がベスト・セラーズのコーナーに
並んでいるわけもありません。
そのことに間する限り、昔も今も変わりはないのです。
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