第1167回
算盤係も世情にうといことでは同じです
「武士の家計簿」という本を
お読みになった方がおりますか。
磯田道史という人が
加賀藩の算盤係をしていた猪山家という
今日で言えば経理部長にあたる仕事をやってきた家の
プライベイトな家計簿について書いた本で、
最近、新潮新書の1冊として出版された本です。
どうして私がイスラム思想とか、
パレスチナ紛争について書かれた本と一緒に
こんな江戸時代のサラリーマンの家計に興味を持ったかというと、
いまのお役人は江戸時代のオサムライさんに
だんだん似てきたからです。
チョンマゲ結って二本差しというと、
東映の映画に出てくる「寄らば切るぞ」の
おサムライさんを頭に浮べたら大間違いです。
江戸時代のチョンマゲは年とった殿様にこびるために、
生えている髪の毛までわざわざ剃りおとして
右へならえをしている証拠だし、
帯刀は今日で言えば、サラリーマンバッチそのもので、
忠臣蔵を見てもわかるようにうっかり抜刀したら、
お家断絶になってしまいます。
士族とは今日で言えば公務員のことですが、
今日と違うところは世襲制の職業になっていたことです。
最近では衆参両院議員の世襲制が先ず復活しました。
公務員はさすがにまだそこまでは行っていませんが、
殿様が経済オンチであれば、
公務員もお年貢で生計を立てている点では同じですから
心情的に大して変わりはありません。
徳川時代は殿様も家来も
百姓から取り立てた年貢で生活をしていましたから、
農家の生産性が上がらなくなると、
家来たちの賃上げも不可能になってしまいました。
家計の不足分を借金で補う時代が
明治維新になるまで長く続いたのです。
一般のサムライが経理に暗いために
台所のやりくりに四苦八苦したのならわかりますが、
大名の中でも最も会計制度のきびしかった
大藩加賀百万石のそのまた殿様のお側に仕えた
財務担当者の家計が火の車で、
収支の辻褄を合わせるために借金をし、
その借金の利払いに苦しんだのですから、
いまの日本とよく似てきたと思いませんか。
お金に困ったら殿様もご家老もどんなやり方をするか
私が説明するまでもないと思いますが。
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