第827回
とんかつの職人ならメシが食えます

東南アジアから欧米まで、
日本の食べ物で一番うけているのは、
もちろん、ラーメンです。
でも正確に言うと、ラーメンのオリジンは中国でしょうね。
ちょうど日本製の自動車が世界中でよく売れていますが、
もとを言えば、アメリカから教わったのと似ています。

そう言えば、
とんかつだって純然たる日本の食べ物とは言えません。
とんは豚ですが、かつはカツレツが縮まったものでしょう。
日本で肉食が普及したのは明治以降のことだし、
豚肉にパン粉をつけて揚げるのは
明らかにヨーロッパからの伝来物でしょう。
私はミラノ風のカツレツを食べるために
イタリアまで出かけたことがありますが、
向こうはビーフカツですから、
日本のとんかつの方が
ずっとおいしいと言ってよいでしょう。

そのとんかつが台湾の人たちの口にあうことは
ずっと昔からわかっていましたし、
日本人が台北でひらいている店で
よくハヤっているところもあります。
しかし、日本料理店の建てなおしをはかるにあたって、
改めて自分のビルの下の店へ行っても、
また近くにある日本人経営の店に食べに行って見ても、
東京で評判の店に比べるとかなり見劣りがするのを
認めないわけには行きませんでした。
ちょうどそこへ百円ショップで働いている青年の
身の振り方について考えることになったので、
2つが1つにつながってしまったのです。

料理人は同じことをくりかえす辛抱強さが必要ですが、
完璧を目指して
絶えず改良の精神を発揮することも必要です。
もちろん、生まれながらの味覚も必要ですが、
研究心さえあればよほどの味オンチでない限り、
ある水準まで達することは
そんなに難しいことではありません。
何よりも大切なのは料理が好きなことですが、
いまのように大量の失業者が工場から放出されている時は
どこに行ってもメシのタネに困らない
手堅い仕事と言ってよいでしょう。
とんかつの一人前の職人になったら、
めんどうを見てもよいと私が言ったのは
以上のようなわけからです。


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2002年6月15日(土)

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