第313回
禁煙をするくらいやさしい御用です

たとえば煙草を飲む習慣です。
煙草を飲むと肺ガンにかかりやすいというので、
近頃は煙草が目の敵にされるようになりましたし、
ついでに煙草飲みまで目の敵にされるようになりました。
飛行機の中は、短距離区間は全面禁煙が多くなりましたが、
飛行場もところによっては全面禁煙になっています。

ところが、ヘビー・スモーカーになると、
それがどうにもガマンできません。
上海の虹橋飛行場が全面禁煙になった頃、
荷物が出てくるのを待っていて
どうしてもガマンができなくなって
とうとう煙草に火をつけた人がおりました。
見ると、片手に罰金に扱う5元のお札を持っています。
罰金を払う覚悟で煙草に火をつけたのですね。

そんな苦労をするくらいなら、
煙草をやめてしまえばよさそうなものですが、
どうしてもそれができないのです。
そういう私もかつては
1日に80本吸うヘビー・スモーカーでした。
香港に亡命していた頃、
人真似をして煙草を口にして咳き込み、
仲間から嗤われたことがありました。
それが習慣になると、職業が職業だけに、
右手にペン、左手に煙草が習い性になってしまい、
1日に3箱のしんせい党になってしまいました。

もともと気管支が弱く、すぐ咳き込みます。
私のオフィスは3階にありましたが、
私がビルの玄関先に着くと、
3階にいた社員が咳をきいて私の到着に気づいたそうです。
思い切って禁煙をする気になり、
約1ヶ月禁煙をしましたが、
或る晩、先輩作家にあたる林房雄さんに誘われて
銀座のバアに行きました。

その折りにバアのホステスに
「1本くらいいいでしょう」
としきりにすすめられて、何気なく1本を手にとったら、
それが80本にふえてしまったのです。
「煙草をやめるくらい何でもない、僕なんか何回もやめた」
と言うのもあれば、
「最初の1本さえ吸わなければいいのだから」
と禁煙のエピソードはいくらでもあります。
問題はどうやってそれを克服できるかでしょう。


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2001年1月17日(水)

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