第153回
新しい仕事には新しいひとが従事します
いまの中国では農民の数が
全人口の80%を占めていると言われております。
農民の数が多いということは生産性が低く、
国がまだ貧乏だということになります。
日本もかつては似たようなものでしたが、
明治維新から第二次大戦が終るまでの80年間に
少しずつ工業化が進み、
戦争が終った頃には農民の数が
50%くらいまで減っておりました。
それがいまでは専業農家は
恐らく5%を割っていることでしょう。
経済が発展すればするほど
農民の数は減りますから、
農民が減ることは
国の生産性が上がっているという意味で
歓迎すべきことなのです。
工業化が進むと、農業に従事する人が減り
食糧のかなりの部分を輸入に頼るようになるから、
いざという時に大へんなことになると
心配する人がおります。
でも戦争になって運送ルートが遮断されたら
困るのは食糧だけではありません。
石油がなくなったら、
自動車も全部ストップしてしまうし、
電力や肥料だってなくなってしまいます。
国全体の機能が
ほとんど麻痺してしまうと言っていいでしょう。
文明の発展は人類を戦争のしにくい方向に
どんどん追い込んでいるのです。
そこに至るまでの道程で、
大きな変化がいくつも起っています。
敗戦は日本の既成秩序を大きく破壊しましたが、
本格的な工業化がはじまるまでの10年あまりは
物をつくるよりは物を動かして
有無相通ずる商売をやった人がいい思いをしました。
ヤミ屋の全盛時代だったのです。
昭和30年代に入ると工業化時代がはじまりました。
不足する物を生産し供給する人が
金持ちになる時代になったのです。
でもヤミの砂糖やサッカリンを仕入れてきて
甘い汁を吸っていたヤミ屋さんが
メーカーに転向して成功した話は
きいたことがありません。
いままでと全く違った若い人たちが
トランジスター・ラジオやオートバイをつくるために
寝食を忘れ、
ヤミ屋さんは製糖会社や製粉会社に
仕事を奪われて姿を消して行ったのです。
仕事が変わる時は、
それに従事する人も変わるんですよ。
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