14. 時代のスキマを狙え
お金ではなくアイデア不足
一〇〇万円しかお金を持っていない人が、一億円資本がないとできない商売の構想を持っても仕方がない。ところが、世の中には往々にして、自分の能力を遥かにこえた発想をする人がある。自分にその能力がなくても発想がすぐれていれば、お金はいつ如何なるときでも儲け口をさがしてキョロキョロしているから、お金を出してくれる人に事欠くことはない。しかし、そういう実行可能なすぐれたアイデアを持った人は、統計的に見ても残念ながら一〇〇万人に一人くらいしかいない。日本に一億二〇〇〇万人の人口があるが、そういう能力を持った人は、はたして一〇〇人もいるかどうかなのである。
私の知っている人でいえば、小谷正一氏がそういう人の一人にあたる。小谷正一といっても知っている人は少ないが、井上靖さんの芥川賞受賞作品『闘牛』のモデルになった人である。
毎日新聞の社会部長から戦後、『新大阪』という夕刊紙の社長に出向して、坂口安吾に『信長』、檀一雄に『新説・石川五右衛門』といった小説を書かせて、文壇に新風を吹き込んだ。
また、いまの大阪朝日放送の創業に参画して、アイ・ジョージや坂本スミ子らを売り出した。パ・リーグの名づけ親でもあるし、万博の住友童話館と電気館の生みの親でもあり、サトウ・サンペイや阿久悠や中村敦夫を売り出した人でもある。
実に多くのアイデアを次々と世に送り出すことに成功したが、自分ではまったく財産をつくらなかったし、また自分の名前を売ろうともしなかった。プロデューサーというものは本来、黒子に徹すべきもので、「これはオレのやった仕事だぞ」と誇示すべきでないという考え方の持主だからである。 |