前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第191回
トヨタとデンマーク国立癌病棟

デンマークの病院は能率が非常に悪いそうです。
私の妻は数年前には、
コペンハーゲンにある国立病院の癌科に勤めていました。
カルテの管理や受け取り受け渡しが主な仕事でしたが、
とにかく実務上の問題の多い職場でした。

外来患者が予定日にやって来ても、
カルテが見つからなくて、治療を受けられずにそのまま帰る、
ということも時々ありました。
なぜ、そうなるかと言うと、一つは人員整理のためと言われます。
そのために、秘書がカルテに書き込むのが間に合わず、
資料管理室に届くまで時間がかかるというのです。
管理システムが各課によって違うのも、手違いの原因です。
他には、癌が全身に転移しているために、
病院全科の秘書がちょっとカルテを借りていきますが、
それが廻りまわって戻ってこないのです。
一番困るのは、こういった状態にあると、
誰一人として「どこに有る」と、断定できないことです。
働いている人も泣けてきますが、
癌と時間の勝負をしている患者さんには、
何と言ったらよいのか言葉もありません。
こういうことがあると、それ1回の過ちで終らず、
時間の無駄ができて他の人の待ち時間も長くなります。

病院は20数階建てですが、
受け持ちの7階建ての建物の内部だけでも広過ぎて、
方向音痴の妻は迷子になりそうでした。
自分で病院の地図を描いて、
それを見ながら行き先と帰り道をたどっていたら、
リーダーに笑われました。
この女性のリーダーは何でも自分の頭の中で処理ができて、
紛失カルテ発見の名人ですが、
名人の技が必要な事務室では大変困ります。
私はこういう話を聞いていてイライラしました。
共通したシステムを作ればよいと思うのですが、
リーダーには自信もあるし、
今までやってきているので変えたくないのでしょうか。
一番進んでいる医療器具をそろえた国立病院で、
前近代的な管理が行われていたのでした。

デンマークの病院は一般に、
よその国と比べて、スキャンニングや放射治療の待ち時間が長くて
能率が悪かったのです。
そこでトヨタ方式の登場になりました。
トヨタの創案したLEAN方式は、
デンマークの工場などではすでに取り入れられていて、
平均30%も能率が上がっています
工場で使われているこのシステムを、ある病院で試したところ、
大変効果があったのでした。

<来週に続く>


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2005年4月8日(金)

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