前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第117回
混沌の町

プノンペンでは観光と殺人の現場の見学と商売の種探しです。
日曜日で仕事も休みだったので、
チュンのお姉さん夫婦は
ソナという名前の娘さんを連れてホテルに来てくれました。
頭のよく働いて人助けの好きなお姉さんは話に聞いていました。
ご主人は人の良さそうな顔で黙ってニコニコしていました。
彼らは町のマーケットまで車で私達を連れて行ってくれました。
私達の居ない間店を手伝ってくれているソピアの、
お姉さんのソナが通訳をしてくれます。
歯科医になる勉強をしています。
この人は後に日本に研修に行ったりもしましたが、
結局デンマークにやって来て学校をやり直しています。
本人は日本に住みたかったのですが、
お母さんの判断でそうなりました。
小柄で童顔のソナは初対面の私達に
「私は子供ではないのです。二十歳です」と、
まず念を押しました。
ソナと話してみると彼女は頭の回転がとても速いのです。
車の中でソナのお母さんは
「ソナを養女にもらってくれないか」といきなり切り出したので、
妻はビックリしたそうです。
社交辞令の言えない私の妻は
「それは出来きません」と、まともに断りました。
ソナは「母の冗談です」と、素早くとりなしました。

マーケットは大きな仮設のテントで、
中は歩き難いほどびっしりと店が詰まっていました。
チュンのお姉さんはそこで宝石を売っていましたが、
ある日強盗がその雑踏のテントに入ってきて、
宝石を全部持っていきました。
顔の正面に向けられたピストルが、カチリと音をたてたそうです。
不発(?)でした。
チュンから聞いた話です。
その日からお姉さんはお店をやめました。
郊外だけでなく首都の街中でさえまだ物騒なのですね。

私達はマーケットでは使えそうな物やヒントになる物も
見つけることは出来ませんでした。
果物以外は商品の質が悪すぎるのです。
次に案内してくれた宝石屋は、
ガスバーナーでルビーのような石を焼いていました。
カンボジアでは宝石は採掘しないで、
くず石を買ってきて加工して売るようでした。
そういえばデンマークのタイ航空に、宝石を持っていって
切符に換えてもらったカンボジア人がいました。
チュンの奥さんがその知り合いのカンボジア人に泣きつかれて、
騙されて貸した宝石が何と切符に化けたのでした。


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2004年12月28日(火)

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