第82回
キャビアのお土産
ブーニンというロシア人がいました。
太めの大男でギョロギョロ目玉に太くて濃い眉で、
達磨みたいです。
あまりそっくりなので私は初対面で、
ついまじまじと見てしまいました。
スペインの観光地の店で騙された時、
ブーニンは大きなカウンターを持ち上げてひっくり返す真似をして
言い分を通したそうです。
普段は温厚なのですが見るからに力が有りそうで、
この顔で怒ったら迫力はあるでしょう。
そんな大男が小さな機械の修理とか色々なことが、
まあまあ出来るのです。
カメラの修理も本職の人に教えてもらったとかで、
インド人の写真屋のカメラなどを修理していました。
私達がインド人から譲り受けた店のカメラも修理していたので、
私も修理は全部彼に頼みました。
大男のブーニンですが、どこかみみっちいところがあります。
ブーニンは時々ロシアに帰って、
その度にこまごまとした品物や情報を仕入れてきました。
あるときは缶詰の特級のキャビアを大量に買い込んできました。
その高価なキャビアの期限切れが近づいてきても、
ブーニンは捌ききれないので焦っていました。
私も大きな1缶を買って食べてみましたが、
灰色のキャビアはとろりと溶けて、
美味しさがネットリと口の中に広がるのでありました。
私は熟したアボガドに乗せて、レモンも絞りかけ、
サワー・クリームをかけて食べるのが大好きです。
この時はキャビアを山盛りに乗せて食べました。
でも毎日毎日は食べたいとは思いませんから、
ブーニンに「超安いがどうだ?」と頼まれても
結局2つしか買いませんでした。
これがカラスミだったら、たくさん買い込むところですが。
昔、ソ連の航空会社の飛行機に乗ると、
半分に切ったゆで卵に灰色のキャビアを盛ったのが出てきました。
初めて食べた私は
“キャビアって随分美味いものだな”と思いました。
後でスチュワーデスが小瓶に入ったキャビアを売りに来たので
「それを買いたい」と告げました。
すると「これはとても高いから買わないほうがいいですよ」と、
スチュワーデスは言いました。
仕事を離れてせっかく忠告してくれた親切を思うと、
私達はキャビアをお土産に買うことができませんでした。
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