第81回
香港から来たプリンセス

春巻き王子　ヘミング・ヴァンはお母さんがデンマーク人です。
香港からやってきたアレクサンドラは
４分の１だけ中国人が混じっています。
本物のデンマーク王子と結婚して子供も２人います。
実業の才能あるキャリア・ウーマンが、
才能のほとんど生かせないプリンセスで我慢できるのか？
やっぱりプリンセスは女の子の夢なのか？
初めて庶民と、
しかも東洋人の混じった相手と相思相愛で結婚して、
相手の選び方が模範的でもあったので国民は祝福しました。
新聞記者達の内輪話では
「プリンセスの肩書きを利用してビジネスをするつもりだよ」
と言う口の悪い人もいました。
しかし可愛気が有って物怖じしないプリンセスは、
王室一の人気者になりました。
未だに言葉が上手になれない女王の夫君と違って、
デンマーク語も数ヶ月で上手になったのです。

そのカップルが先月離婚を前提にした別居を発表して、
国民を驚かせたのでした。
デンマークでは双方が希望しても離婚するためには
６ヶ月別居して、
その意志が本物かどうか確かめなければなりません。
アレクサンドラは家を買って、お城を出ました。

そのすぐ後で女王は離婚とは関係ない件ですが、
前々から予定されていた公式記者会見に出席しました。
記者団は質疑応答の時間に、
当然離婚についての質問を用意して会見に向かいました。
女王は質問の時間になると下を向いて２分程沈黙しました。
それから吐息をついて「質問を受けます」と言いました。
居並ぶさすがのジャーナリストも、
女王の心の傷の深さを感じて
離婚についての質問が出来なくなってしまったそうです。

それとほぼ同じ時期にアレクサンドラも公式の場に登場しました。
アレクサンドラが登場すると
居並ぶ記者達は何も言わずに立ち上がって拍手を始めたそうです。
離婚の理由を知っている（と思っている）記者団は、
アレクサンドラの離婚を「よくやった」と
支持を無言で表明したのでありました。
「イギリスのジャーナリストは
王室について知っていることをすべて書く」
「デンマークのジャーナリストは知っていても全部は書かない」
そこがデンマークの王室がスキャンダルの少なかった原因だ、
とデンマークの記者は言います。
王室も今では皆とあまり変わらない教育を受けた普通の人間です。
世襲で特権を手にしたその普通の人間が、
崩れた安易な方に流れがちなのも当たり前でしょうか。