第64回
カンボジアの明日は
チュンの11人の兄弟の中で
一人だけ殺されずに生き残ったお姉さんは、
小さな工場の持主と結婚していました。
ソピアのお父さんです。
タンクローリーのタンクなどを作っています。
まじめで仕事も速いのですが、単価が安くて大変だそうです。
その上この頃は出来上がった製品が入ってきて、
発注も減ってきたそうです。
チュンのお母さんと甥のソピア君は許可が下りて、
デンマークで一緒に住むようになりました。
英語もあまり喋れなかったソピア君は、
一年たつと何とかデンマーク語が話せるようになりました。
そこで店の忙しい時はアルバイトに来てもらうことにしました。
仕事初めの日に私がニコニコしてソピアを迎えると、
それが意外だったらしくて
「あなたは何で笑ってるの?」
いかにも意外そうな顔で尋ねました。
「これ、笑ってるんじゃなくて、微笑んでるんだけどね」
私が親愛の情を見せるのがどうも腑に落ちなかったようです。
ソピアは頭の良い子で、
機械もコンピューターもすぐに覚えて
故障の原因を見つけるのが上手でした。
お父さんが技術者だったので、
チュンと違って機械をいじった経験が有ったのです。
会話ができるようになると
ソピアは立派な人間なのが分かりました。
言い難いことでも尋ねられたことには答えて、
曖昧にすることがありません。
そういうところは特に私も見習わなければなりません。
約束は守り、自分のことばかりでなく相手の事を考えます。
規範を持っていて誘惑にも強そうです。
これで17歳でした。
本人はまったく思ってもいないでしょうが、
その位置につけば国の復興の仕事が出来るのは
こういう人かと私は思います。
態度は誠実でゆったりしていて、
デンマーク人によく見かける秀才のタイプみたいです。
でも仕事は速いのです。
いつでもどの国にもこういう人は居るのですね。
武力と外交(援助引き出し)至上のカンボジア政府が、
こういう青年を登用する環境になって欲しいです。
伯楽はなかなか出ないということですが。
言葉ができるようになったので、
ソピアはエンジニアの資格がとれる学校に通い始めました。
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