第62回
カンボジアン・パーティー
店は苦しいところでしたが、
カンボジア人のチュン君を無理して雇った頃から
運良く店も忙しくなってきました。
売り上げがなぜか毎年どんどん上がって、
借金も三年で全部返すことができました。
チュンは数人の仲間と
難民キャンプから脱出してアメリカに向かった人です。
破壊されたカンボジアでは
パスポートなんて発行されていませんでしたから、
偽造の旅券です。
それまでデンマークなんて国が
この世にあることも知りませんでしが、
まずデンマークを経由してドイツに向かいました。
ところがさすがはドイツで、
着いたところで見破られて皆捕まって
デンマークに追い返されました。
ヨーロッパではそういうことがあると、
その直前の国に送り返されるのです。
送り返されたデンマークで
チュン達は難民の扱いを希望して叶えられました。
随分心細い思いをしましたが、やっと落ち着く所ができました。
チュンは仲間と4人で一軒の家を借りて住むことになり、
デンマーク語の勉強から始めました。
難民に認定されれば、
家賃も教育も小遣いもデンマーク政府が持ちます。
今は4人とも結婚してそれぞれ別の場所で暮らしています。
カンボジアの人は集まるのが好きで、パーティーも大好きでした。
チュンと仲間の二人がいつもパーティーを運営して、
私達が招待された時はいつも後片付けまで彼らがやっていました。
それで私は他の二人も信用できると思ったので、
仕事を手伝ってもらったり、
彼らを手伝ってあげるようになりました。
チュンはカンボジアでは歌手になろうと志して、やってみました。
「でも、成功しなかった」と、言うことです。
そこで、パーティーになるとカラオケで歌って聞かせます。
日本の歌謡曲が幾つかあったので私がそう言ったら
「これはタイの歌をカンボジア語に訳したものだ」と、言います。
カンボジアの人は元々お酒をたくさん飲む人は少ないようです。
それでも何人かの男たちが酔っ払って騒ぐと、
奥さんらしい人が「なんだか!」と一声しかります。
すると騒いでいた人達は皆シュンとなって、
酔いが醒めて白けたように静かになります。
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