第61回
黒いモデル達
カンボジア人のチュンが店に入ってくると仕事が足りないので、
写真のスタジオを作って写真を撮ることにしました。
(証明書写真は最初のうちはポラロイド・カメラを使ったので、
写真が出来上がるまで心配でした。)
露出が肌の色によって随分と異なるので始めはよく失敗しました。
アラブ系の人は彫りが深く髪の色は濃くて、
写真写りが良いので安心できました。
白っぽいデンマーク人は
画面がぼんやりしてしまって難しいのです。
ライトの強さはデンマーク人に合わせてあります。
すると、黒人は最初のうちは
目鼻も分からない真っ黒になってしまって、
証明写真は何の証明にもなりませんでした。
しかし露出を上げてみると
こんなに写真を撮るのが易しいお客はありません。
くっきりと美しく仕上がるので
「こんなに綺麗に写してくれる写真屋はない!世界で一番だ!」
ということになりました。
そこで、口コミでポートレートや全身の写真を撮りに来る
アフリカ人がたくさんやってきました。
竹村健一さんが本で
「乞食まで美人でついフラフラっとした」
と書いた国の近辺から来た人達は特に写真が大好きでした。
モデル志望の人がたくさんいましたが、
それも納得してしまいます。
ナオミ・キャンベルに似たような顔立ちで、
同じようにスタイルのよい人がたくさんいるのです。
竹村流にいうと“高貴な顔立ち”と、いうことになります。
男性も顔もスタイルも良いのです。
肌の黒い子供はどこの国の子もこれまた可愛いくて、
映しやすくて、写真のモデルには打ってつけです。
見慣れるといかつい顔と体の人も、
似合った服装の人は相当格好良いのが分かるようになってきます。
どこの国の人でも自分に似合った服を着て、
歩き方を堂々とすればかなりよろしくなります。
逆に若い女性が太いお腹を出したりして格好悪くても、
見るほうも見られる方も気にしないのが
デンマークの良いところです。
でも子供達は、よくお母さんに
「足を引きずるな、膝を伸ばして歩きなさい」と言われています。
同じアフリカでも、
憎たらしいアフリカ人と
可愛いらしい心を持ったアフリカ人と両極端に別れるのは
元植民地の所以でしょうか。
尊大な態度で「お前、写真はチャンと撮れるのか?」
「値段が高いぞ半分にしろ。半分でも客が来ないよりましだろ?」
こういう人は「いばる人が偉いんだ」
又は「いばらないと馬鹿にされるのだ」
と思っているように見えます。
私はデンマークの施設で
知的障害者に(理由なく?)馬鹿にされた経験が何度もあります。
相手を馬鹿にするには、客観的に見て“馬鹿にされる人”より
“馬鹿にする”方が“偉い”必要がないのが良く分かりました。
当人は何らかの点で
自分が優位に立っていると信じているのでしょうが。
一方小さな声で
「私は色が黒くて普通に撮るとよく見えないのです。
悪いけど薄めに撮っていただけませんか?」
そう言う可愛いい人もたくさんいます。
でも何も考えないでやって来て、
思いもかけず綺麗に撮れて
無邪気に喜んでくれるアフリカの人が一番多くて、
こちらも楽しくなります。
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